地方議会制度・運営の考察 シリーズ5
辞職許可の効力と議員の辞職の効力は同時か
辞職が許可されれば会議には出席できないのか
「もって」と「付け」の違いは
辞職の許可後は会議に出席できる?
40数年の経験を活かした地方議会運営等の見解
議会運営アドバイザー、山形県町村議会議長会前事務局長
武 田 裕 樹
Ⅰ 議員の辞職
1 辞職の手続
⒈ 地方自治法第126条「普通地方公共団体の議会の議員は、議会の許可を得て辞職することができ
る。但し、閉会中においては、議長の許可を得て辞職することができる。」
2 辞職の効力
⒈ 議会で議員の辞職願を許可したときは、議決したときをもって効力が発生するとされています。
⑴ この場合、本人が除斥により議場の外にいる場合は、本人に伝えることができます。
⑵ 本人が欠席している場合は、議長(事務局長同伴)が本人に文書持参(口頭可)で伝えます。
⑶ 本人の自宅に許可書を郵送で伝えることができます。 - いずれかの方法が考えられます。
⒉ 閉会中に議長が辞職願を許可し、本人の自宅に郵送したときは、辞職の許可の効力は、通知の到
達をもってその効力の発生の要件としています。(昭和34.11.17行政実例)
⑴ 意思表示の効力発生時期等 民法第97条(到達主義)
⑵ 通知が到達する前に辞職願を取り下げたときは、辞職の効果は発生しない。(S34.11.17行実)
⒊ なお、郵送による場合は、配達証明などの方法により確認の手段を講ずることが適当です。
⒋ また、本人が閉会中に議長に議長室で、辞職願を提出し、その場で議長が許可したときの辞職の
効力は許可した時点となりますが、文書により本人に許可することが間違いがありません。
Ⅱ 辞職の効力
1 辞職に関する課題1
⒈ 本会議で議員の辞職を許可したとき、どの時点で議員の身分を失うのか。
辞職の許可が決定された以後の会議には出席できないのか。
⑴ 本会議で辞職の許可をしたときは、議決された時点で辞職の効力が発生すると解されていま
す。
⑵ 一般的には「できない」と解されています。
⒉ 辞職の許可の効力と議員の辞職の効力を区別できるのかは、つぎの事例を検討してください。
⑴ 議会開会初日に、議員が「議会最終日をもって、辞職したい」とする辞職願を提出したとき、
議長は、この辞職願を預かり、議会最終日に議会に諮り許可したが、最終日の辞職が許可され
た時点で辞職の効力が発生するのか。
1) 一般的には、開会初日の辞職願の提出はあくまで、提出した日であり、本人の辞職指定日に
より、辞職を許可したのは「議会最終日」であるから、辞職の効力は最終日の「許可の決定」
のときです。
⑵ では、議長が提出された開会初日に、議会に諮って、期日指定(会期最終日)の辞職願を許可し
たときは、どうでしょうか。
1) 議会の許可と期日指定による辞職の効力は、当然に違います。この場合、開会日に許可され
たので、許可の効力はそのときになりますが、辞職の効力は「会期最終日」となります。
2) よって、初日から会期最終日の前日までの会議には出席できると解するしかありません。
3) これは、閉会中と同様の考え方です。閉会中に期日指定の辞職願を議長に提出し、その日に
議長が許可しても、辞職の効力は期日指定の日となります。
4) ただ、このような事例では、議会最終日の会議に辞職願を諮ることが適当です。
5) なお、開会初日の辞職の許可から議会最終日の辞職の効力までに辞職の取下げを行うことは
できないと解します。
辞職の許可の効力は、議会の議決によって生ずるからです。
⑶ 前記の事例では、「議会最終日をもって」と辞職の期日を指定していますが、さて、この「も
って」は、いつの時点までを議員としての資格があると判断すべきなのでしょうか。
Ⅲ 辞職の許可の効力と辞職の効力の時期
1 辞職に関する課題2 - 「もって」と「付け」の考え方 -
⒈ 辞職願に「〇〇日をもって辞職したい」と「〇〇日付で辞職したい」と期日が指定されてる場合
では、どのように違うか。
⒉ 「本日をもって」と「本日付で」の場合はどうか。
(参考)
民法第141条、第142条「期間はその末日をもって満了(終了)する。」つまり、当該末日の午後
24時が満了となる。これは、「もって」の考え方が当てはまると考えられます。
民法第135条「法律行為に終期を付したときは、その法律行為の効力は期限が到来した時に消滅
する。」つまり、当該日が到来する午前0時で消滅する。これは、「付け」の考え方が当てはまる
と考えられます。
⑴ 議会運営上、閉会中での許可は、特に問題が生ずることはないと考えられます。
⑵ このことが疑義となるのは、開会中に辞職願を許可する場合です。
⑶ 「〇〇日をもって辞職したい」あるいは「本日をもって」辞職願が、事前に許可されたとき
は、その日の午後24時までは、議員であると解釈される。
⑷ 「〇〇日付で辞職したい」辞職願が、事前に許可されたときは、当該日の午前0時が到来し
時点で議員の資格が消滅する。
また、「本日付けで辞職したい」辞職願が、本日の会議で許可されたときは、議会の許可の時
点で議員の資格が消滅すると理解するしかない。
⑸ 民法の規定が遵守されるのであれば、このような解釈になると考えられます。
⒊ 議会制度上、民法をそのまま適用するには、疑義が生ずる。
⑴ 議会が辞職を許可したときは、その後の審議に議員として加わることは、できないとする考え
方が大勢を占めています。
⑵ これは、議会の制度上、あるいは議員の職責上から辞職の効力と議員の資格喪失は、同一時期
とするものです。
⑶ とは言え、民法上によって、議員から辞職許可後の審議に加わることが求められた場合、何を
もって根拠として、対応するのかが問題となります。
Ⅳ 辞職の提出の仕方
1 議会の議決の時期
⒈ 「もって」「付け」などの辞職願が提出されたときでも、「辞職」の許可は、できる限り、当該
会議の議事日程の最後で行うなどで対応することが考えられます。
2 当該議員の真意の確認
⒈ 前述した、「もって」「付け」などが記入された辞職願に対しては、辞職願の提出者から、いつ
まで議員としての職務を務めるのか、確認して対応してはどうか、とする一部意見があります。
⒉ ただし、本人に確認することが何らかの根拠となるとは考えられません。これをどのように、根
拠とするのかは「書面」で行うなどの方法をとらないと、後刻、問題が生じないとは言えません。
3 議会運営規程等に規定化
⒈ 辞職願における「もって」「付け」に対して、議会の考え方を定めることが考えられます。
⒉ つまり、このような記入の仕方をしても、議会が辞職願を許可した場合は、同時に議員の資格が
消滅すること、以後の会議には出席できないことなどを定めることが考えられます。
⒊ しかし、議員の資格については、議会の自律権とは異なることから、議員の資格をこのような規
程で制限することができるのか、疑義も生じます。
4 「もって」「付け」を使わない辞職願の提出
⒈ 辞職願を提出するに当たっては、「もって」「付け」を使用しないで、例えば「〇月〇日に辞職
したい」あるいは「本日辞職したい」などと記入することです。
⒉ このようなことを運営規程等に規定化することも考えられます。
⒊ この「もって」と「付け」は、閉会中の議長の許可では、特に問題となることはないと考えられ
ます。問題が生ずるのは、会期中に提出される辞職願です。