議員のなり手は子供たちを育てることから

地方議会制度・運営の考察 シリーズ7

議員のなり手確保は議会の役割か? 議員はライバルを作る必要があるのか
変化した議員の候補者選定  住民個々の積極的意思表示が必要に 
住民の意識改革が求められる どのようにして?  
住民自治を低年齢から育ることが必要不可欠 中・長期的展望に立っての施策を

                 40数年の経験を活かした地方議会運営の見解
                 議会運営アドバイザー、山形県町村議会議長会前事務局長
                        武  田  裕  樹

Ⅰ 議員のなり手はなぜ不足しているか

 地方議会議員、特に町村議会議員のなり手が減少していると言われています。
 一般改選の際の議員定数の定員割れや無投票などが挙げられそのデータは、様々な機会に紹介されているので、ここでは省略します。
 議員のなり手が減少している理由については、いくつか挙げられています。
 これも、様々な機会に紹介されていると思うが、私が考える理由についていくつか挙げてみたいと思います。

⒈ 人口の減少
 これは、言うまでもなく、日本全体の人口ばかりでなく、最も顕著なのは、地方の人口が大きく減少・流失しており、「限界集落」とか「消滅可能自治体」などと言われるようになりました。
 当然、人口が減少すれば、議員への立候補等の比率も減少することになります。

⒉ 議会の負のイメージ
 議会は、「なれあい議会」「イエスマン」「議会や議員の活動等の不透明性」「情報発信の不足」などと言われ、議会や議員に対して、住民は負のイメージを持っていました。
 しかし、これは日本の地方議会の体質・性質・性格等によるところもあると私は思います。
 地方議会の歴史について、今回は、ごく簡単に言えば、まず、議会が男性社会であったこと、租税等の条件等があったことから、誰もが議員に立候補することができなかったこと、中央集権国家での許認可制による機関委任事務によって、地方議会の役割は大きくはなかったこと、などが挙げられます。

⒊ 住民の無関心さ
 これには、積極的無関心と消極的無関心があると、私は考えています。
 積極的無関心は、いわゆる「他人任せ」「自己の時間の確保」「低額報酬」(特に町村)等により、全く「議会」に無関心な者が一定数いると思います。
 消極的無関心とは、政治や住民自治に関心はあるものの、接する機会や接する方法等がわからず、興味や関心がどんどん希薄になってしまう者です。
 しかし、総じて住民が政治・議会に無関心なのは、日本国民の体質の問題もあるのではないでしょうか。中央集権国家による、朝廷、幕府、地方領主等により、士農工商を含め、長屋における差配制まで、くまなく縦の関係が築かれており、「上にまかせとおけば」とか「下は黙ってついてこい」といった体制、習慣、風習等によって、一般の住民にとっての「自治」は、無縁のものとなっていたことが大きいのではないかと考えます。

⒋ 議員報酬の低額と議員の活動負担の増大
 議員報酬は生活給ではなく、役務の対価という捉え方が一般的ですが、議員の仕事量も地方分権以降に増大したこともあり、自身の本来の仕事が疎かになったり、あるいは、辞めなければ議員ができないといったこともあり、生活給の一部としなければ、議員はやれないとする、多くの意見があります。しかし、現実的には地方財政の状況等から、特に町村議会議員の報酬を生活給並みに引き上げることは、100%無理です。
 そうなれば、若手や働き手、子ども家庭では、議員になれないとする現実があります。
 都道府県議会議員や政令指定都市など一定の市議会議員であれば、地方での平均給与を遥かに超える議員報酬となっていますから、生活給に見合っていると言えますが、町村議会議員の報酬ではそうはいきません。

⒌ 議会・議員の情報発信の不足  - 議会広報や議会・議員評価、議会白書等の発信 –
 前述したように、地方分権以降、議員の仕事量は、大幅に増加しました。
 しかし、これまでの議会・議員のイメージは、「議員が何をやっているかわからない」「議員は会議に出席するだけだから、楽で良いよね」と、実際、議会や議員の仕事や仕事量が理解されていませんでした。
 もちろん、地方分権以後でも、まだまだ理解はされていません。
 事実、初当選した議員とお話をすると、「こんなに大変だとは思わなかった」「実際、やらないとわからない」との意見をお聞きします。
 最近は、議会や議員の活動内容が理解されるよう、議会広報の発信や議会・議員評価、議会白書など、仕事内容や仕事量を住民に発信しています。
 また、後述する住民の参画・協働による施策は、住民の理解を高めることにも大いに役立てられています。

⒍ 住民の嗜好性と余暇の使い方
 国際社会状況の激変、多様性や価値観の違い、個々の嗜好性などにより、また、一時の働き方改革などによる仕事の後の余暇の使い方など、生活ライフの変化により、議員という仕事を敬遠する若手や働き手といったこともあるのではないでしょうか。
 加えて、議会や議員の仕事や仕事量が理解されれば、されるほど、「本来の仕事の上に、残業のように議会・議員活動をするのか」といった、考えも生まれてきます。
 まして、特に町村議会議員の低額報酬では、「やってられない」と考える住民も少なくないはずです。

⒎ 立候補者の選定の変化と選挙はどうやるの  - なぜ 供託金がいるの? –
 まず、選挙における「供託金」とは、当選を争う意思のない人が売名などの理由で立候補することを防ぐため、また、泡沫候補の乱立を阻止するための制度と言われています。
 これまでは住民の代表者となる候補者については、➀地域、②職域、➂考え方の一致する者が組織化、などの中から代表者を選出することが一般的でした。
 今日では、このような候補者の選出がなかなか進まない、候補者を選出できないということが少なくない状況となっています。
 こうなると、住民全体の中で、住民個々の意思表示が必要となり、個々の判断に頼らざるを得ない状況が生まれます。
 よく、「地盤」(組織)、「看板」(知名度)、「かばん」(資金)などが必要だと言われてきました。
 しかし、例えば、➀まちづくり、政治、住民自治等の知識、②選挙方法の理解(公職選挙法、ネット選挙、選挙運動、選挙違反、政治資金規正法等)、➂資金、などの問題が、個人にかかってくることになります。
 そうなると、住民個々が出ようとしても、何をやったら良いのか、何から手掛けたら良いのか、全くわからないず、立候補の意欲が減退することになります。
 このようなことから、踏ん切りがつかない、面倒くさくなり立候補を断念する、などの考えになることが多いのではないでしょうか。

Ⅱ 短期・中期・長期による対応策とは

1 人口の減少、流失は、いち議会だけの問題ではない

 人口減少や自治体からの流失は、いち議会だけの問題ではなく、国策を含めての対応策が求められるものであるから、今回は、省略します。

2 負のイメージからの脱却   - 地方分権による議会の強化・充実の対応 –

 議会の負のイメージについては、特に地方分権により、議会の重要性、重責等が飛躍的に拡大したことでの議会のあり方の見直し等とも相まって、一層の活性化対策が採られるようになりました。
 地方分権では、地方自治体が自己責任のもと、自立した経営をしなければならないことから、様々な取組みを行う必要があり、自治体の法律とも言える、条例の制定が不可欠となりました。
 自治体の条例制定にあたっては、地方分権により、これまで「授権がなければ条例は制定できない」から「法律で禁止していない限り条例は制定できる」との解釈、また、法律の「うわ書き」「横出し」等による、条例制定権の拡大が図られたことにより、各自治体・議会が独自の条例を制定することができることとなりました。
 これによって、議会も様々な施策の展開を図るために、独自に条例等を策定することとしました。

3 これまでの審議体制を見直す

 前述したように、議会の重要性、重責等が飛躍的に拡大したことから、議会の役割・責務もまた、増大・重大となりました。
 地方分権以前の議会のあり方では、自立した独自の経営はほとんどできない状況にあり、議会が関与する余地がほとんどないと言えました。しかし、地方分権による自治体の自己責任による自立した経営は、自治体の最終意思を決定する議会としての役割等を果たすために、議会の機能・権限の強化・充実が喫緊の課題となり、さらに、自治体の事業・施策等を含めた行財政全般に対する議会の調査・研究等の強化・充実によって、議会は自ら政策形成・立案能力の強化・スキルアップが必要不可欠となりました。これによって、これまで以上の議会審議が図られるようになりました。
 この政策形成等のための議会の調査・研究等活動については、住民との関りを含めた様々な方策が打ち出されることとなりました。
 この調査・研究等の活動の根拠等としても、議会の条例が制定されるようになったのです。

議会に関する条例制定状況(どのような条例が作られているか)は、シリーズ5をご覧下さい。

4 住民の関心度を高める方策  - 住民参画と協働 –

 このことは、2つの意味があると理解されます。
 ひとつは、住民の関心度を高めるための方策です。いわゆる、住民自らも「まちづくり」に参画し、住民自治の自覚を促し、育てることです。
 議会の仕組みを理解し、今何が求められているのか、何が必要とされているのか、住民が意見を持ち寄り、それではどのようにすれば良いのか、また、長が打ち出す施策とそれはマッチしているのか、など住民が政策形成に参画し、企画・研究等を協働していくことが、住民の関心度を高めることに繋がるとするものです。

5 住民の知恵を借りる 専門性の活用 - 議員定数の大幅減少 –

 市町村数・議会数は、平成の大合併により、大幅に減少しました。
 さらに、議会議員定数は、地方財政のひっ迫と議員報酬の増減、議員のなり手減少等の理由により、ここ数年は若干落ち着いてはいますが、それ以前は、毎年のように、議員定数を減員する議会が後を絶ちませんでした。
 なお、これで議員のなり手が確保されるかというと、そうではありません。
 そのため、行財政全般に対して、ひとりひとりの議員が全てに対しての専門性を有することは、困難です。また、委員会ごとにその専門性を振り分けようとしても、議員数が足りませんので、全てを網羅することはできません。
 そのために、ある部門での専門的な住民の意見や知恵を活用することとしています。
 もちろん、とりわけ専門的な知識に長けていなくても、身近な暮らしの中で、住民の意見を聴くことは、議員にとっても、非常に参考とすることは多くあるはずです。

どのような住民参画・協働が行われているかは、シリーズ5をご覧下さい。

将来的に議員の立候補者となり得る住民の参画・協働を目的とした施策は、議員のなり手を育てるという観点では、比較的短期の対応策になるのではないかと思います。

7 立候補の積極的な意思を高めるためには

 前述しているように、住民の参画や協働の多数の機会を作り、まちづくり、議会、住民自治が理解されるよう、議会として積極的な対応をとることが必要です。なお、議員OBが「政治塾」などを作って、講習会等を開いているところもあるようです。

8 選挙方法等の学習

 議員になろうとするためには、選挙をしなければなりません。
 前述したように、地域や職域等の代表者となれば、支援者とともに考え、実践していくことができます。その支援者の中には、元議員だったり、選挙等に詳しい者がいて、積極的に支援します。
 しかし、前述したように、個々での立候補となると、なかなか、それらの専門的知識をひとりで、習得するには、難しい面があります。
 やはり、元議員や元職員、詳しい者に相談することが一番かと思います。また、方法を聴くだけなら、「議会事務局」「選挙管理委員会」という方法もあります。
 一般的な議会や政治、選挙方法などの知識に対する問い合わせに対して、特に、公平性を欠くから答えられないと断じてしまうものではないと考えます。議会事務局や選挙管理委員会等の知識を広く、住民に伝えることは、決して公平性を欠くものではないと思います。
 また、今は、「ネット」で調べることもできます。これらを組み合わせて、学習することができるものと考えます。
 つぎに、選挙運動については、国際社会情勢等にも相まって、これまでの選挙運動が大きく変化しました。
 特に、デジタルに詳しい者なら、「ネット選挙」を活用することも考えられます。もちろん、このネット選挙は、有権者の層によっても変わりますが、現代の携帯・PC等の時代ならではの方法となるでしょう。このような方法も活用すれば、少ない資金や運動員で選挙ができると考えられます。
 資金については、まず、供託金が必要となります。選挙の対象によって異なります。
 また、公職選挙法によって、ポスターやビラ、はがきなど一定数の経費が公費で賄われます。
 辻立とか自転車での方法などもあるようです。できる限り、お金を掛けず、広く有権者に訴える方法は、様々考えられるのではないでしょうか。
 なお、選挙期間中とそうでない期間での、「政治活動」と「選挙運動」をよく理解してください。 

Ⅲ 国等の施策と議員報酬の考え方

 前述した議員の仕事や仕事量などをも勘案し、その上で議員のなり手を増やすという対策では、国は、公務員の復職や兼職、企業には議員の活動にあたっての配慮を求める、などの検討がなされています。
 また、全国町村議会議長会では、議員報酬の増額の検討を求めることなどを盛り込んだ重点要望を行っています。
 しかし、現実的には、今の地方財政状況では、議員報酬を増額することは、議員定数の減数によるのかという、ひと昔前の考え方が根ずよく残っているのも事実です。
 私は、地方議会議員の最低報酬額(最低賃金)を、地方交付税に盛り込むことが最善の方策ではないかと考えています。そのうえで各自治体では、その上乗せを自前の財源で行うことが良いのではないかと考えます。もちろん、この最低報酬額は、現行の報酬額の平均額を若干でも上回ることが必要です。 そうでなければ、議員報酬の増額にはつながらないからです。

Ⅳ 中・長期的展望に立った施策  - 子どもたちを育てる –

 私は、むしろ中・長期的展望にたった子供たちを育る方策を推奨しています。
 例えば、中学生の「公民」の授業にあわせて、地方議会とは何か、まちづくりとは何か、などを学ぶことはとても大切なことではないでしょうか。
 そのうえで、子供たちが、自分の町の概要を知り、今、町に何が必要なのか、どうしたら町が活気ずくのか、どうしたらそれが可能となるのか、調査・研究をし、自分たちのまちづくりを少しでも論じられるような学習機会が必要ではないでしょうか。
 さらに、政治や地方議会の仕組み、議員は何をやっているのか、住民自治とは何かを学ぶ機会を設けることも忘れてはなりません。
 このような、施策・対策が、将来、議会・議員に興味を持つ、きっかけになるよう、積極的な実践が必要不可欠です。
 正副議長等が年数回の授業の講師になるとか、今、議会の概要を小学生や中学生向けとしてのキッズページを開設したり、一般的な議会のしおりを作成している議会があります。
 また、選挙権を18歳とした際に、総務省と文科省が共同で「私たちが拓く日本の未来」と題した副読本を作成しました。あれは、今も活用されているのでしょうか。
 政治という観点からも、大変に良いものが作られているのですから、前述したものと併用し、議会の学習教材として、オンラインで議会と結ぶとか、出前議会の教材とするなどの方策を考えては、どうでしょうか。

まずは、自分が住んでいる「まち」を知ること、議会とは・議員とは何かを知ることが必要ではないでしょうか。

Ⅴ 立候補に伴う相談と選挙方法を学ぶ

1 議員のなり手を育ることは議会の役割か

 最後に、議員としては、無理にライバルを作る必要があるのかという疑問もあるのではないでしょうか。議会は、一般の会社のように、毎年、新入社員を募集することとは違い、現行の議員を含めて、改めてシャッフルすることになります。それが、議員の選挙です。
 選挙には、大きな労力や経費がかかります。
 一方、議会とすれば、現行の体制、役割・責務上から議会を構成する議員が全くいないという状況は、二元代表制を根底から崩壊せしめることになります。さらに、「議員」の質という観点を含め、より多くの候補者により、住民の選択の幅が広がることは、まちの経営の一翼を担う、議会にとっては必要不可欠な要素になります。
 そのように考えると、議会の構成員たる議員が、議員の立候補者の確保を協議・検討していかなければならないのは、ひとえに「議会」の存立のためですから、何とも「もどかしい」ことではありますが、「議会の構成員たる議員」としての立場で考えていくことになるのでしょう。
 本来、議会に議員を選出するのは、「住民」の役目です。
 その点で言えば、昔は、「地域」や「職域」などから議員の立候補者を送り出していました。
 今は、それが崩壊していると言っても過言ではないのでは。
 そうなると、全体の住民の中から、さて、議員の立候補者を出しましょうといっても、決まるものではありません。イメージは、学校のPTA役員を選出するときの苦労に似ています。
 誰もやりたがらないのが、正直な話ではないでしょうか。
 やはり、根本は住民の意識改革が最も必要なことではないでしょうか。
 住民の意識改革は、何も議会だけの問題ではなく、地方公共団体全体の問題でもあるのだから、執行機関とともに、住民に対する知識の供給を行い、自分が参加する住民自治の認識・自覚を促すことからはじめる必要があるのではないかと思います。
 それが、執行部・議会からの「啓蒙」なのか「啓発」なのかはやり方によるものと思いますが、議会としては、前述しているような、施策等を短期・中長期的にわたって、実施していくことが肝要です。