地方議会制度・運営の考察 シリーズ9
議会・議員のコンプライアンスとは
なぜ 今 議会はコンプライアンスが問われるのか
国が求める施策は現行の解釈では議会の権限外である
まずは 求められる議会の あり方の変革
議会のコンプライアンスを理論的・合理的に構築しよう
議会には「議員の管理・監督責任はある」 議会は組織
議事機関は構成員の環境整備の構築を - 議会・議員の性格性質を考慮 -
40数年の経験を活かした地方議会運営の見解
議会運営アドバイザー、山形県町村議会議長会前事務局長
武 田 裕 樹
1 なぜ 今 議会のコンプライアンスが問われるのか
⒈ 国際社会情勢の変容 - より強く求められる人権尊重等 –
1) 現代は、男女共同参画社会を含め、LGBTQ等多くの課題を抱えた国際社会であり、その中で
人権は最も尊重されなければならない喫緊の課題となっている。
2) 現代では、多様性、価値観の違いを尊重し、ダイバーシティーの構築を目指す社会全体のあり
方の変容が求められており、さらに、個性や自己主張の尊重、個人化社会などが急激に進んでい
る。
⒉ 集団社会において行き過ぎた多様性や個性の尊重はリスペクト・互譲等が損なわれる
1) 多様性や価値観の違い、個性・自己尊重等の尊重、個人化社会など現代の国際社会情勢等の中
で、これまでの社会通念の基準は、厳しく変容しており「良識とは」「常識とは」「道徳とは」
人によって、捉え方が著しく異なれば、それが「秩序の低下・乱れ」に繋がり、ややもすれば
「争いが起こりかねない」という側面を有している。
2) また「寛容」は、多様性や価値観の違いなどを尊重することに繋がるが、個性の尊重や自己主
張が強くなりすぎると他者の意見等を聞き入れず、それを多様性と称して、相手をリスペクトし
ない寛容・度量の狭さによる「寛容性の低下」は、逆に集団社会の中で「対立」や「反発」など
を生むことになり、争いを生じさせないという側面がある。
2 コミュニケーションと潜在的ルールの変容
⒈ 権力の勾配のある関係性でのコミュニケーションの変容
1) 高圧的・いき過ぎた注意や指導・助言はNG
権力の勾配のある関係性の間で、人格を尊重し信頼を築きながら、相手の異論の受入れや注意
・助言等の仕方等、後輩などを育成するためのコミュニケーションの手法を磨いていくことが必
要となっているが、多様性・自己主張と忍耐・根気・起立等との食い違いにより、しばしば問題
も生じている。(例・議員と職員間による高圧的な態度(私的な資料・調査要求など)、議員間に
よるパワー関係による行き過ぎた言動など)
⒉ 常識って何?道義的責任って何?
1) 現代では議会における潜在的ルールは共通ルールになり得ない
議会の潜在的ルールとは私が考え使う言葉であるが、「常識・良識」「道徳」に「議会の慣
例・申合せ等(規定化無)」を含んだものである。
2) 国際社会において、多様性や個性の尊重、自己主張・個人化社会では「常識や良識しの判断・
基準」「道徳観」等は、人によって大きく異なることから、これまでのことを押し付けることは
できない。
➀ 慣例や申合せは「昔のこと」と認識されるので、残したいものは「規定化」を
② 常識、良識、道徳も議会ではできる限り「規定化」を
例えば、議場の服装は背広やネクタイは絶対か、クールビス・ウォームビス・山形コンフォ
ートビス(県議会も実施)などは?軽装とはどこまでか? 議会の品位と議員の品位との兼ね合
いは?
3) 「できない」と明確にされていないことは「できる」と解される
地方分権後の条例制定権の拡大等による解釈なども大きく影響していると考えられる。
➀ 録音機・撮影機の議場の持込は禁止規定が「ない」から「できる」、では、使用禁止は
「ない」から誰でも自由に「できる」と解釈される。
4) 昨今の報道等によっても、これらが顕著である
3 国等の動きと住民の要求・要請
⒈ 国の動きと対応
1) 内閣府男女共同参画局が行った調査によれば、女性が立候補を検討したが取りやめた理由とし
て「性別による差別やセクシュアルハラスメントを受けた」を挙げた割合が23.5%もあった。
このことから、立候補を考える女性・女性議員に対するハラスメントは、議会における多様な
住民の声の反映、多様な住民のための政策実現の貴重な機会を奪うものであり、被害を受ける女
性候補者・議員に対する人権侵害としての問題性を含めて、適切な施策等が必要とされた。
2) 2018年5月「政治分野における男女共同参画の推進に関する法律」を成立し、その中で、国・
地方公共団体の施策の強化として
➀ 環境整備では「施策の例示として、家庭生活との両立支援のための体制整備」を明記。
② セクハラ・マタハラ等への対応では、防止に資する研修の実施、相談体制の整備などの策
を講ずるものとする。
➂ 実態調査では、調査対象として社会的障壁の状況を明記。
④ 人材の育成等では、模擬議会・講演会の開催の推進の明記。 などが盛り込まれた。
※ 国は、議員間の酒席での場面や選挙にかかる場面、会議外での議員間の場面でのハラスメント
に対しても、議会にその対応をもとめている。(筋違いでは?)
現行の解釈は 議会は議員に対する関与は「会議において」であり、「議員の管理監督責任はない」
⒉ 住民の議会に対する心象と変容
1) 住民は議会議員は、より人格者(高潔・品格)である者が住民の代表となるので、「住民の選良
である議員」との心象を持っていた。
2) その住民の選良である議員で構成される議会は、様々な形態等により、特殊な・特異な環境に
ある「ところ」とのイメージが持たれていた。
3) しかし、住民は今も昔も、議会は組織であり、議員は一般社会と同様に構成員(社員)との認識
は変わらない。
そのような中で、議会議員の「政治と金」や飲酒運転等、度重なる不祥事によって議員の人格
・高潔性を疑い、議員への信頼の裏切りとして、その怒りと対応を議会の「議員の管理・監督責
任」として強く求めてくることが顕著となっている。
4) 加えて、議員はどこに行っても「議員」であり、どのような言動においても「議員だから」と
いう心象は変わらない。
5) 議員の日常的な、私的な言動であっても、より厳しく住民に注視され、その行為が社会規範等
に反すると判断したとき、議員は議会の構成員であるから議会に対して、何らかの対応を求めて
くる。
6) 住民の要求には、議員のその言動が会議内外かによって、議会が法的な措置を講じられるかど
うかを前提としていない。
4 求められる議会のあり方の変容
⒈ 議会の位置付けと議員の身分
1) 「議会は職場ではない」「議員は労働者ではない」「議会と議員間には雇用関係がない」「議
長と議員間には労使・関係はない」と解されているので、「労働基準法(関連法含む)」の適用を
受けない。
2) 地方議会議員は、非常勤の特別職ですが、地方公務員法の適用を受けない。
3) 議会には、議員の「服務・分限等に関する条例・規程等」「就業規則」がない。
4) 議会議員は、住民の代表として選挙される。試験等によって選考されるものではない。
⒉ 地方議員の服務・分限等にあたるもの
1) 地方議会議員の服務に類するものは、地方自治法第89条第3項と言える。
「議会の議員は、住民の負託を受け、誠実にその職務を行わなければならない。」(抜粋)
2) 地方議会議員の規律等については、地方自治法や会議規則等に規定されているが、すべてが
「会議において」が前提である。
3) 議会は、前述の位置付けや身分等からも、法第102条の趣旨からも、議会・議員の性格・性質
上「議会には議員の管理監督責任はない」と解されており、「議員の規律は会議内だけに限定さ
れるから、会議外での議員の一切の行為は、議員個人の問題とされる」、これが従来の考え方で
あった。
5 議会のコンプライアンスを理論的・合理的に構築しよう
⒈ 法的にも「議員の管理監督責任はある」 - 議事機関の(所管)活動 –
1) 現代の国際社会における認識が変容したことは前述したとおりである。
2) 予てより、私は、議会には「議会(本会議等活動・法第102)と議事機関の活動(憲法第93、法
第89➀)が存在し、それぞれにそれを実行・実施するための「議員活動」があると述べてきた
が、明確に認められていないのが、現状である。しかし、既成事実として実施されているものも
ある。
3) 憲法第93条と地方自治法第89条第1項には「議事機関」と明確に規定されている。
規定されているのだから、「議事機関」には「議事機関の活動」があり、「議事機関の定款」
が必要であり、議事機関の「目的」「役割」「構成員等に関する服務・分限・就業等」などが定
められていなければならない。
4) 「議会基本条例」は、「議会の最高規範」「議会の憲法」などと称されており、内容は本会議
等の役割・活動等や議事機関の目的・役割、構成員、活動等に関する規定が複合的にまとめられ
ていることからも、これを定款にあたるものとして、すでに取扱いがなされている。
5) なお、「議員の管理監督」については、議事機関の法定活動と本会議等に伴う法定活動に限ら
れるものであるが、議員の日常的な言動を含めて、議会の管理監督を適用せざるを得ない状況と
なっている。(前述の国際社会、国・住民等の認識等により)
6) 現状でも、「議員の請負の公表に関する条例」「議会における個人情報に関する条例」「議会
のデジタル化に関する条例・規程」などは、どれも議事機関としての所管であり、議会の活動や
議員の活動が通年で伴うものもある。
これを定例会や臨時会にかかる活動の一部であり、会期中にしか活動・手続き等をすることが
できないとする意見は、あまりにも非論理的・非合理的である。
⒉ 議会の管理監督責任を明確に認めよう
1) 現行の「議会には議員の管理監督責任は有していない」との解釈は、前述したとおり理論的・
合理的でないことから「議事機関としての議会は議員の管理監督責任を有する」と明確に示す必
要がある。
2) 前述の男女共同参画局のアンケート調査結果の公表で「酒席や選挙運動等、政党内などの議員
の日常の言動に対する女性へのハラスメント」が、議会活動に多大な影響を与えるとし、現行法
の解釈を明確にしないまま、その対応を議会に求めることは、聊か強引な話である。
3) 現行法では➀議会には「議員の管理監督責任がない」、②議会は会議内の議員の言動にしか
対応できない、と解釈しているのだから、会議外の議員の日常的な言動までを、議員活動の萎縮
につながるとして議会にその対応を求めることは論理的ではない。
4) 国は、統一的な見解として、地方議会には「議事機関の活動があり」、議事機関の所管の中に
は「議員の管理監督責任」が生じている、と示す必要がある。
⒊ どのようにして議事機関の活動を法定化するか
1) 地方自治法には、「議事機関の活動」にかかる明確な規定はなく、現行第6章「議会」第1節
「組織」第89条から第95条までと第138条「議会事務局」しかない。
2) 地方自治法等では、「条例等の制定」を義務化するものもあり、「議員定数条例」「議会事務
局設置条例」「議会の個人情報の保護に関する条例」などがある。
3) また、「議員の請負の状況の公表に関する条例」は、まさに地方自治法第92条の2「議員の兼
業禁止」の「組織」を受けた、議事機関にかかる「条例の制定」と言える。
4) このように、自主的に議会が、議事機関の活動に必要な条例を個別に制定すれば良い。
⒋ 議会の活性化、議会のデジタル化推進にマッチした議会活動の幅を広げよう
1) 議会の活性化、議会のデジタル化推進の観点からも、また、議会が執行機関と両翼としての役
割を通年で担うためにも必要な議事機関の活動は、「議会基本条例」や個別の「条例制定」をす
ることによって、法定活動としての根拠が、裏付けされるので、議事機関と言うより「地方議
会」の活動の幅が大きく広げられることになる。
2) この議事機関の活動は、何度も繰り返すが法第102条にかかる活動ではないので、「会期」と
いう概念はないから、「いつでも」である。ただし、条例の規定の仕方に工夫を要する。
3) なお「議会が持つ議員の管理監督責任」の範囲は、議会や議員の性格・性質などにより、非常
に限定的に捉えざるを得ないことに留意が必要である。
6 議会(議員)のコンプライアンスとは
⒈ 議会のコンプライアンスとは
1) コンプライアンスとは「法令遵守」を意味し、国や行政機関が定めた「命令」を指すことから
全ての法律・命令と解されています。
2) 加えて、コンプライアンスには「議会(社内)規範」も含まれ、議会基本条例、会議規則、委員
会条例等、議会が制定しているすべての例規と言える。
さらに、地方公共団体が制定している例規も含まれると解する。
※ 現行法での「議会が対応できるコンプライアンス」は、会議中の議員の言動が対象となる。
3) さらに、コンプライアンスには「社会規範」「倫理規範」も対象であり、社会道徳(モラル)等
も含まれます。
※ 会議中における議員の言動には「倫理」「ハラスメント」も含まれます。
しかし、議会用語では「倫理」や「ハラスメント」は、「侮辱」「無礼の言葉」「私生活に
わたる言動など、と規定されている。
⒉ 倫理(ハラスメント含む)とは
1) 倫理とは、「人間生活の秩序つまり人倫の道」「社会生活で人の守るべき道理」「人が行動
する際に規範となるもの」などと言われています。
だから、議員活動のみならず、議員の日常的な行動までも含まれます。
2) ハラスメントとは、相手の嫌がることをして不快感を覚えさせる行為全般を意味するが、嫌
がらせとは、相手を不快にさせたり不利益を与えたりするなど、肉体的・精神的な苦痛を与え、
人間としての尊厳を侵害する行為の総称です。
3) ハラスメントには、様々な種類があるが、特に、職場においては、セクシュアルハラスメン
ト(セクハラ)やパワーハラスメント(パワハラ)などがよく問題となります。
⒊ 議員の倫理
1) 議員は、住民による選良であり、おのずと優れた人格(高潔・すぐれた人柄)の持ち主であると
理解されているので、社会規範・倫理規範にかかる社会通念の基準は、より厳しく求められてお
り、常に議員には強い「道義的責任」が伴い、それは議会内外、議会・議員活動であるかを問い
ません。
2) 議員は、会議内外を問わず、議員としての人格が求められ、政治家である議員の言動には、
常に「政治的責任」が伴い、議会・議員活動であるかを問いません。
3) 議員は公職にある公人なので、例えば、名誉棄損罪は、公然と事実を摘示して他人の名誉を
傷つける行為ですが、名誉を傷つけられた事実であっても、特例の要件を満たせば成立しないと
言われています。
特例の要件としては「公共の利害に関する事実」に該当するか、「公益を図る目的といえる
か」、「事実であることの証明があるかどうか」などが議論されます。
4) このように、議員であるがゆえに、一般人より、制約がかかる場合があることを認識しなけれ
ばなりません。
なお、侮辱罪は、事実を摘示しなくても公然と人を侮辱する行為であり、「侮辱」とは他人の
人格を蔑視する価値判断を示すことをいいます。
7 コンプライアンスに対する議会の対応(会議内)
⒈ 会議内での議員の言動例
1) 会議において、議長の注意等にもかかわらず、何度も同様の行為を行った。
2) 一般質問中に議員が答弁者に対して「あんたはバカか」「無能」「学歴がないから」「土下座
しろ」等
3) 答弁者や議員に対して「女だから」「家事でもしてろ」「若造が」等
4) 議員・委員間の議論等において「タブレットも使えないのか」「機械音痴は引退しろ」等
5) 質問や質疑中の発言をしながら「演壇や自席を叩いて大きな音を出す」(発言していない議員
の行為も)
6) これらの言動が規定違反となるかどうかの最終意思は、議会が行う。(議会の自律権)
⒉ コンプライアンスの事由と根拠(会議内)
1) 国・議会の法令などに違反、抵触する言動
➀ 法第129条、同第132条、同第137条、会議規則第54条の行為等を行ったとき、または、違
反したとき。「秩序維持(会議中に)(この法律又は会議規則に違反)(議場を乱す議員)、「品位
の保持(無礼の言葉)(他人の私生活)」、「欠席議員の懲罰(正当な理由なく招集に応じない)(正
当な理由なき欠席に対する招状に応じない)、「発言内容の制限(簡明、議題外にわたる、範囲
を超えた)」
② また、会議規則第102条、第103条、第104条、第106条、第107条に違反または抵触したと
き。「品位の尊重」、「携帯品」、「議事妨害の禁止」、「離席」、「禁煙」、「新聞等の閲
読禁止」、「許可のない登壇の禁止」
2) 倫理上の言動
➀ 刑事上の侮辱罪・名誉棄損罪・脅迫罪・強要罪などの「倫理上」の行為や傷害罪・暴行罪
など「物理的」な行為に対しても、上記の国や議会の法律等の規定違反の是非に照らすことが
できる。(侮辱や私生活等、議場を乱す等)
② ハラスメント行為(パワハラ、セクハラ、モラハラ等)も、上記の国や議会の法律等の規定違
反の是非に照らすことができる。(侮辱や私生活等)
➂ なお、刑事・民事については当該個人の判断によるものであり、個人対個人の問題である
3) つまり、会議中の「不適切な言動」一切が、議会のコンプライアンスの対象でもあり、法令等
の違反対象でもある。
⒊ 議会のコンプライアンスの措置(会議内)
1) 議会の懲罰
➀ 地方自治法や会議規則等の違反・抵触等に対しては、法第134条の「懲罰の理由」を根拠と
し、「懲罰動議の提出」「処分要求」によって、議会の審議を経て当該議員に「懲罰を科す
る」ことができる。
ただし、懲罰動議や処分要求は、議長や議員の発議によらなければならない。また、動議や
要求は懲罰の事犯があった日から3日以内に議会に提出しなければならない。(秘密会にかかる
ものは除く。)
② 懲罰の種類及び除名の手続については、法第135条となる。
➂ 会議規則第111条の規定により、「必ず、委員会に付託しなければならない」。(常任委員会
でも特別委員会でも可能)
④ その他に懲罰等にかかる手続き等は、会議規則第110条から116条までに規定されている。
2) 「問責決議」「辞職勧告決議」などの「決議」を可決する
➀ 議会の対外的な表明にすぎないが、議会が議員の言動に対して一定の対応をとったという
事実行為は示される。
② 短期時効制がないので、つぎの会期(定例会・臨時会)でも構わない。
➂ 決議には、本人に対する「強制力がない」ので、「議員としての品位・品格・住民の信頼
等をどのように考えるか」を本人の判断に委ねることになる。
3) 議員政治倫理審査会の措置(ハラスメント含む)
- 今後の議事機関の議会としては必要不可欠 –
➀ 「議員政治倫理条例」を策定して、審査会の設置を規定することによって、倫理違反の是非
を含めて、その措置を協議することとなる。
② まだ、まだ「議員政治倫理条例」が制定されていない議会が多々あるが、現代社会におい
て、議事機関としての議会には必要不可欠な条例である。
➂ 懲罰は「会議において」適用(一部除く)されるものなので、「会期中の議員の言動」や「懲
罰」の短期時効の関係から「議員政治倫理条例」による措置を求めることが考えられる。
④ ここでは、あくまで「会議内の言動」に対する「議員政治倫理条例」として紹介している
※ 「議員政治倫理条例」「ハラスメント防止条例」については、後述します。
⒋ 住民の対応
1) 住民は、法第80条による議員の解職請求を行うか、つぎの議員の選挙の際に住民の意思を示す
ことが考えられる。
8 コンプライアンスに対する議会の対応(議会外)
⒈ 議会外の議員の言動事例
1) 議会が主催する議員と職員の酒席での議員の言動 (個人の会費制)
➀ 議員が職員に、議員が議員に、「ばか」「無能」「仕事ができないくせに」などの言葉を
発した。
② 議員が職員や他の議員、住民にセクハラ行為を行った。(相手の意に反する性的な言動)
2) 会期中、あるいは閉会中に議員が執行部職員の自席に赴き、または議員控室に呼びつけて、個
人的に資料の提供を要求した又は要求する際、「もっと頭つかえ」「出さないなら否決する」等
3) 議員が個人的な飲み会の席上、まちの事業等の議論の最中に住民に罵詈雑言を浴びせた。(発
言内容の問題ではない)
4) 議員が飲み会の帰りに、自ら運転し、飲酒運転で検挙された。(議会主催、個人的な含む)
5) 政治資金パーティーや経営する会社内の、町内の事業所等との、住民との金銭的なトラブル。
6) 議員が発行する「〇〇通信」で、事実無根の内容が含まれていた。関係者の住民から議会に苦
情等がきた。
7) 本来、これらの行為は、すべて個人の問題であるが、そうもいかない。
⒉ 議会のコンプライアンスの事由(会議外)
1) 会議外での法定活動
➀ 議会・議員活動には、本会議の議決や条例等による会議外での法定活動(派遣等)があるが、
これも議会のコンプライアンスの対象となる。
② しかし、法定活動であっても、会議外であれば、原則、議会の「懲罰」の対象にはならな
い。他の手立て(議会の措置)は、あるのか。
2) 日常的な議員の議会活動、政治活動、私的な言動・行為等
➀ 議員の日常的な議会活動(前述)を対象とする。
② 議員の政治家としての政治活動を対象とする。
➂ 議員の私的な日常の行為を対象とする。
④ 前述した法令、議会規範、社会規範、倫理規範の遵守(コンプライアンス)に反する行為を対
象とする。
3) 議員には、常に「道義的責任」と「政治的責任」が伴っている
➀ 住民は、議員は品位・品格、高潔がもっとも優れた「人格者・模範者」であるとの心象か
ら、社会通念や道徳観等の基準をより厳しく求めており、その行為が社会規範等に反する行為
であると感じたときは、議会に何かしらの対応を要求する。
② また、議員の「政治と金」の問題は、裏金、見返り、賄賂といった直接的な問題だけでな
く、政治家・議員がかかわる「金(カネ)」に対する一切の行為が法令等や社会規範等に反する
行為と感じたとき、住民は議員への信用・期待への裏切りと捉えてしまい、何かしらの対応を
議会に求めてくるという、非常に危ういことになりかねません。
➂ 議員のすべての言動には、常に「政治的責任」や「道義的責任」が伴い、それに反する行
為に対しての責任の取り方は、本人が個人で判断することではあるが、住民はそれでも何かし
らの対応を議会にも求めてくる。
議会は、このような観点から、今日の国際社会情勢の中で、住民の厳しい要求なども踏まえて、
「議会が持つ議員の管理監督責任」の立場から、本人に対して政治的責任や道義的責任を追及せざ
るを得ない。
4) 議会のコンプライアンスになり得るすべての議員の言動
➀ 議会外でのすべての議員の言動に対して「議会のコンプライアンス」の対象とすることは
できる
⒈ 主権者は住民であること
⒉ 公職にある公人である議員の言動はときに社会(地域)に与える影響が大きいこと
⒊ 国際社会情勢等による社会性の変容と住民意識の変化によって、議員としての資質をより
厳しく求めていること
⒋ 住民は、議員はいかなる時でもいかなる場所でも「議員」であると認識していること
など
5) 議会のコンプライアンスを条例に - 議員のすべての言動を対象にするためには –
➀ 議員のすべての言動を議会のコンプライアンスとするためには、条例を策定することが適
切である。
② 例「議員政治倫理条例」(規定中に倫理基準を規定)(ハラスメント含む)
➂ しなくとも議会の議員の管理監督責任上、できると考えられるが、土台はあった方が良い
6) 刑事・民事による事犯は、個人対個人
➀ 会議外での議員のあらゆる言動に対しては、ハラスメントを含めて、刑事・民事による、
侮辱罪や名誉棄損罪、軽犯罪、 脅迫罪、強要罪、傷害罪などは、すべてそれらの行為を受け
た本人の判断によるところである。
⒊ 議会のコンプライアンスの措置(議会外)
1) 議会の懲罰
➀ 会議外での法定活動や法定外活動では、地方自治法による「懲罰を科する」ことはできな
い。(対象外)
2) 「決議」
➀ 本会議での「問責決議」や「辞職勧告決議」などの方法がある。
② 議会の対外的な表明にすぎないが、議会が議員の言動に対して一定の対応をとったという
事実行為は示される。
➂ 決議を行うこととなった議員の言動に対しては、議員のすべての言動を対象とすることは
可能。社会規範、倫理規範も議会のコンプライアンスとすれば、議員の日常、私的な行為も含
めることができる。
④ 本人に対する「強制力」はないので、後は「議員としての品位・品格・住民の信頼等をど
のように考えるか」を本人の判断に委ねることになる。
3) 議員政治倫理審査会の措置(ハラスメント含む)
- 今後の議事機関の議会としては必要不可欠 –
➀ 「議員政治倫理条例」を策定して、審査会の設置を規定することによって、倫理違反の是非
を含めて、その措置を協議することとなる。
② まだ、まだ「議員政治倫理条例」が制定されていない議会が多々あるが、現代社会におい
て、議事機関としての議会には必要不可欠な条例である。
➂ 懲罰は「会議において」適用(一部除く)されるものなので、「会期中の議員の言動」や「懲
罰」の短期時効の関係から「議員政治倫理条例」による措置を求めることが考えられる。
④ ここでは、あくまで「会議外の言動」に対する「議員政治倫理条例」として紹介している
※ 「議員政治倫理条例」「ハラスメント防止条例」については、後述します。
⒋ 住民の対応
1) 住民は、法第80条による議員の解職請求を行うか、つぎの議員の選挙の際に住民の意思を示す
ことが考えられる。
⒌ コンプライアンス違反等で議員がとる措置(会議内外を問わず)
- 政治的責任・動議責任を含めて -
1) 議員や役職等の辞職
2) 議会の懲罰による措置(会議内) 法第135条の懲罰の種類
3) 陳謝(懲罰除く)等(議員政治倫理条例等による措置)
※ 議員自らが議員としての責任をとる
※ 議会から求められたことに対する議員自らの対処
※ 判決などによる失職(公民権停止)
9 議会のコンプライアンスの取組み
⒈ 議員に対する周知等
1) 研修会等の実施
議員の資質等向上等の一環として、専門家による研修会を実施する。これは、特に議会におけ
るハラスメントに対する認識が希薄であることから、国は研修会の実施を強く求めています。
2) 教材等の配布
➀ 国の「男女共同参画局」は、政治分野におけるハラスメントの事例等を題材とした、動画
を配信しており、議会が議員に対するハラスメントに対する研修会等における教材として活用
されるよう推奨しています。
② その他に、ハラスメントに関する参考資料、地方議会人には専門家等によるハラスメント
特集が組まれるなど 多くの情報を収集することができます。
⒉ 議会の意思を条例で示す
1) 議員政治倫理条例やハラスメント防止条例の制定趣旨
➀ 現代の国際社会では、これまで以上に厳しく人権尊重等が求められ、これまでの「常識や良
識、慣例等」の許容範囲が、より厳しい方向に変容しています。
② これまで、特別な環境下にある議会の「議員」の会議内外での言動の一部は、必ずしも現代
の国際社会に通用するものでなく、むしろ、誤った認識とされ、それを質していくことが強く求
められています。
このことを、議会議員は速やかに認識し、現代の国際社会における地方議会議員としての自覚
を持ち、議員の役割、職責を果たす行動をとることが求められています。
➂ また、従来より「政治と金」の問題は、常に住民の批判を浴びており、議員は常に選良とし
ての自覚をもち、公職にある公人であることを忘れてはなりません。
④ このような今日の情勢下にあり、国の強い要請や住民の議会に対する要請・要求等とも相ま
って、議会は議員 の倫理に関する対応を早急にとる必要性が生じました。
➄ 議員の会議内での言動に対しては、当該会期中に「懲罰」や「決議」の対応を速やかに措置
することができるが、会議外での議員の言動に対する議会の対応は「決議」しかなく、本会議を
開かなければできないので、一定の手続・期間に時間がかかることも。
⑥ また、会期中における議員の会議外での言動に対しては、即座に「決議」という形で本会議
による対応ができるが、閉会中であれば、臨時会の開催手続・期間に時間がかかることも。
10 議員政治倫理条例とハラスメント防止条例
⒈ 条例制定の意義
1) 国際社会等における人権等の問題をも含めた議会のコンプライアンスの構築
2) 議員としての政治的責任と道義的責任の自覚と公職者たる議員の倫理観の自覚
3) 住民が求める議会の議員に対する管理・監督責任に対する対応と議会の素早い対応のための
方策
4) 条例等の制定により、議員の主権者たる住民に対して、条例という法で議員を戒める・自覚
を促すための対応がなされていることを周知する
⒉ 課題
1) 議員政治倫理は、ハラスメントをも含めた「議員の倫理」であるから、ハラスメントに関す
る事を含めて、倫理条例とすることも考えられます。
2) 議会も組織であるから、会社のように会社外での行為に対しては、よほどの社会的な影響を
与える事案以外は、基本、関知しないのが一般的であるが、議員にとっての主権者は「住民」で
あり、議会・議員活動は会議内外にかかわらず、地域全体が職域であると考えられるので、その
意味では、不正等や議員間、職員等に対するものだけを基準とするのではなく、主権者に対する
公職である公人としての規範(法令・モラル等すべてを含む)に対する、 議員の倫理としての対象
は、住民すべてに及ぶと解するべきです。
⒊ 審査会 - 議事機関の内部の設置 -
1) 議員政治倫理条例やハラスメント防止条例の「審査会」では、審査による措置を決定(措置の
是非含む)し、議長に報告するとともに、議長は住民に公表します。
2) 但し、一般的に「審査会要綱」等での措置は、条例に明記されていても、条例が法の一種で
あり、法的措置とは言えるものの、強制力はないと考えられているから、本人の対応に委ねるこ
ととなります。
3) しかし、住民の議会に対する早急な対応には、一定の理解は得られるだろう。
※ このようなことから、議員政治倫理条例は、議会になくてはならない、必ず策定されるべき
条例と考えます。
4) 審査会は、議事機関の内部組織として、条例で設置することができます。
5) 審査会の開催等は、議事機関の活動として、会期中に関係なく、議長の招集(規定)で開くこと
ができます。
⒋ ハラスメント認定委員会 - 議事機関の第三者機関の設置 -
1) 議員による審査会では、ハラスメントを認定することは困難であるので、専門家による審査
会に委ねることとして、第三者機関を設置します。
2) ハラスメント認定委員会(審査会)は、議事機関の組織として設置するが、第三者に対する費用
弁償について検討 する必要があります。
⒌ ハラスメントに関する相談窓口 - 国が推奨する体制 -
1) 国は、地方議会にハラスメントに関する窓口相談を設置する体制づくりを推奨しています。
2) これは、本来の議会の役割ではないが、このことからも、地方議会では議員の管理・監督上
の問題として、議事機関の活動・組織の体制と認知していると証明しています。
3) 個人情報保護、人権等の観点も含めて、どのように相談を受けるのか、誰を相談員とするか
どこまで(副議長、議運委員長等)を範囲とするか、議会議長や議会事務局職員等がどこまで、足
を踏み入れるのか、などの疑義が生ずる。議員には、秘密会を除いて、基本、守秘義務がないの
で、相談員には守秘義務を規定化しなければなりません。
4) 専門的家を委嘱するなどの方法をとることができるか。
➀ 法第102条の2の専門的知見の活用は「趣旨」が違います。