正副議長の立候補制の是非と活用

地方議会制度運営の考察 シリーズ2

正副議長選挙を立候補制とすることは可能なのか?
立候補制の考え方とその活用法 会議規則に立候補制は規定できるか?

               40数年の経験を活かした地方議会運営等の見解
               議会運営アドバイザー、山形県町村議会議長会前事務局長
                        武  田  裕  樹

Ⅰ 正副議長選挙の立候補制の背景

1 正副議長選挙の根拠
 正副議長選挙は、地方自治法第103条第1項で「議会は、議員の中から議長及び副議長1人を選挙しなければならない。」と規定しています。
 公選法第46条第1項・第4項「投票の記事事項及び投函」、第47条「点字」、第48条「代理投票」、第68条第1項「無効投票」、第95条「衆議院比例代表選出議員又は参議院比例代表選出議員の選挙以外の選挙における当選人」(第1号・第5号(地方公共団体の議会の議員の選挙(法定得票数)))を準用することとしています。

2 正副議長選挙の根拠規定の解釈
 地方自治法第103条第1項では「議員の中から」と規定されていること。
前述した公選法の準用規定には、立候補による選挙の規定はないので、正副議長選挙では、立候補制はできないと解されています。

3 誰に投票したら良いのか
 正副議長の選挙は、前述したことから、選挙人は「議員」であり、被選挙人も「議員」であると解釈されます。
 ただし、特に初議会の際の正副議長の選挙では、初当選の議員もおり、かつ、立候補制を採れないので正副議長に相応しい人物をどのように考えていくのかが見えません。
 特に、町村議会の場合には、議員定数の大幅減少や会派制がないと等も影響しています。

Ⅱ 正副議長選挙の立候補制の解釈

1 国会の質問と答弁
 平成30年4月5日に、桜井周衆議院議員より「地方議会の正副議長の選挙の立候補制」に関する質問主意書が提出されたが、その答弁の概要は「選挙の期日の公示又は告示があった日に立候補を届け出る旨等を規定した公職選挙法(昭和25年法律第100号)第86条の4等の規定が地方自治法(昭和22年法律第67号)第118条第1項において準用されていないからといって、地方公共団体の議会における議長及び副議長の選挙について、お尋ねの「立候補する意思のある者にその旨を議会において表明させること」が否定されるものではないと解される。」としています。(衆HP質問答弁情報から抜粋)

2 立候補制の活用
 前述の国会でのやり取りでも、理解されるように「法律上の問題ではなく、それぞれの議会の運営において立候補制を準用することは法の予測するところではない。」とするものであり、このことによって、地方議会では正副議長の選挙に伴い、立候補制を活用するところが多くあります。

Ⅲ 正副議長選挙の立候補制の活用方法

1 立候補制の地方自治法違反
 立候補制による正副議長選挙を行うことはできません。
 なぜなら、地方自治法によって、議員は等しく選挙権を有し、議員は等しく被選挙権を有しているからです。
 地方自治法第118条の規定により、立候補制が準用されていない以上、立候補制による正副議長選挙を行うことは法律違反となるとともに、議員の権限を侵害することは許されません。
 立候補制は、あくまで、運用上のものと理解すべきです。

2 立候補制の活用
 国会の質問主意書に対する答弁での「立候補する者が表明する」ことは、「当選者の対象を立候補者に限定する。」という意味ではありません。また、どこでやるのかという課題もあります。
 このようなことから立候補制の仕方については、いくつかの方法があります。
➀ 全員協議会等(閉会中又は休会中)
  定例会や臨時会あるいは正副議長の選挙の前に、全員協議会等を開き、そこで、正副議長選挙に
 立候補する議員は立候補の表明を行う。
② 本会議での正副議長選挙の前に行う
 ⒈ 開会前に全員協議会等を開催して、立候補者が立候補表明を行う。
 ⒉ 本会議を一端休憩して、立候補者が立候補表明を行う。
   本会議での立候補者の立候補表明は、「本会議でやるべきことではない。」との考えから、休
  憩して行う。この場合、会議録には掲載されません。
 ⒊ 本会議の日程に正副議長選挙の立候補者の立候補表明の事件を掲載する。
   例「正副議長選挙の立候補者の立候補表明の件」が、独立した日程事項となり、この場合、会
  議録には掲載されます。

Ⅳ 正副議長選挙の立候補制の留意点

1 立候補制と投票の拘束力
 前述しているように、法は議員の投票対象を議員全員としているのであり、立候補者に限定することは「議員の選択自由の権利」を侵害するものと解されます。また、投票される権利をも侵害していると考えられます。

2 投票の有効性
 立候補表明をしていない議員に投票された「票」は、有効かという問題があります。結論から言えば、「有効」です。
 これを「無効」として行った選挙は「瑕疵ある選挙」に該当すると解します。
 法律によって担保・保障されている「議員の権利」を制限・侵害することはできません。

3 当選人の有効性
 立候補表明した者以外の「票」を「無効」とした場合、仮に、立候補表明していない者が最高得点票(法定得票数)となったときは「議長になれない」ことになります。これは、地方自治法による「議員の中から議長を選挙する。」との規定に違反していることになります。
 つまり、「なれる」権利を侵害されていることになるからです。当然に、立候補表明していない議員が最高得点票(法廷得票数)になったときは、「その者が議長」に当選することとなります。(辞退しない限りは)

4 本会議での立候補表明における課題
 本会議で行う議長選挙の場合、議長が欠員となっているので、本会議の議長職を「副議長」「臨時議長」が務めていると考えられます。
 議事日程上での立候補表明の件を議題したとき、当該副議長が、あるいは臨時議長が立候補表明を行うとき、誰が議長の職を務めるのかという問題があります。
➀ 副議長が議長職を務めているとき
  副議長は「事故あるとき」に該当するが、議長は「欠員」なので、地方自治法第106条第2項の
 「仮議長」によることはできないのか。
② 臨時議長が議長職を務めているとき
  臨時議長は法第107条の規定により、議場にいる議員の年長議員となっているので、臨時議長が
 表明したいとする場合、つぎの「年長議員」が臨時議長を務めることはできないのか。
回答
 これには、ひとつの参考を示します。
 令和5年2月の松本総務大臣の記者会見の抜粋です。
 「具体的には、本会議につきまして、議案に対する質疑・討論・表決と、それからいわゆる一般質問、すなわち団体の事務全般について執行機関の見解をただす趣旨で行われる質問、この2つを分けて考え方を整理いたしました。前者、議案に対する質疑・討論・表決、これについてはこれまでもお示ししているところですが、本会議において団体意思を最終的に確定させる上で、議員本人による自由な意思表明は疑義の生じる余地のない形で行われる必要がある、そのことから、地方自治法、表決の要件として出席とされているということになります。そうなりますので、表決や、表決と一体不可分の議事として行われる討論や質疑については、議員が議場で行う必要がある。一方、後者、いわゆる一般質問、団体の事務全般について執行機関の見解をただす趣旨で行われる質問になりますが、これについては形式についても法律の定めがないところになりますので、各団体の会議規則などで定めるところによって、本会議に出席が困難な事情を抱える欠席議員がオンラインで行うことも可能であることなどについて、お示しをする助言通知となります。」
〇この見解では、一般質問は「法律に定めがない」「議事のような質疑・質問、表決との一体不可分がない」ので、オンラインにより欠席している議員が遠隔地から参加することは可能だとしています。この件については、様々な考え方かあり、一様に進められるかというと疑問も生じるところではあります。
 とは言え、これは、大変に参考になる考え方であり、これを正副議長の立候補制による立候補表明の際の議事に当てはめると、⒈法律に定めがない、⒉一体不可分でもない、ということになります。つまり、当該議会において判断されるものと考えられます。
 このようなことから、仮議長を選出しても次の臨時議長であっても、当該議会の判断でいかようにもできると解されます。極端な話、仮議長ではなく、議会運営委員長等が副議長に変わって、議長の職を務めることも可能であると考えられます。

Ⅴ 正副議長選挙の立候補制を会議規則に規定することの是非

1 会議規則の規定
  規定すること自体に問題はないが、要は「どのように規定」するかにあります。
➀ 正副議長選挙に立候補表明を用いることの規定
  会議規則に正副議長選挙の際は、立候補の表明を行うことができるとする規定は可能です。
② 正副議長選挙の投票に関する規定
  正副議長選挙の際の投票に関して、立候補表明者以外の者に投票することを「禁じる」規定は
 作れません。立候補表明者以外の者の「票」を「無効」とする規定は作れません。
 仮に、このような規定を作ることが、各議会の判断によって「できる」と解されるならば、「票
 の按分」など準用できないものを自由に規定化できることになり地方自治法第118条の準用規定が
 形骸化してしまいます。これは、条例制定における「上書き」「横出し」の範疇を超えている者と
 解します。

2 規程・要綱等の策定
  立候補制に関する手続き等にかかる規程・要綱等を策定することが適当です。
 会議規則に規定しなければ、立候補表明を用いることを改めて規定します。
 会議規則に規定しなければ、票の取扱いを規定します。
 所信表明を行う時期、場所、持ち時間等。
 所信表明までに、議長職をとっていた者が立候補表明する際、誰が議長職を務めるのか。

次回は「地方議会の起立表決の課題とその対応」です。