地方議会制度・運営の考察 シリーズ 11
「請願の提出締切日の規定は有効か」
請願の提出締切日を規程等に規定することは適当なのか
議会の自律権は、憲法第16条等の請願権に制限をかけられるのか
提出日の締切を過ぎた請願書は会期中に提出できないのか
40数年の経験を活かした地方議会運営等の見解
議会運営アドバイザー 山形県町村議会議長会前事務局長
武 田 裕 樹
問 私の議会では、請願書の提出締切日を「議会運営規程」に、開会前〇日前まで(議会運営日の開催前日まで)と規定しているが、紹介議員より、請願者がどうしても、今定例会での審議をお願いしたいと、提出締切日を過ぎた開会日に議会事務局に持参した。以下について、ご教授願いたい。
⑴ 議長は「議会運営規程」により、受理を拒否することができるか。
⑵ 議長は、受理はするが、今定例会での議題(審議)とすることができないと断ることはできる
か。
⑶ 提出の締切日を過ぎてはいるが、まだ今定例会の開会前なら、どうか。
⑷ 紹介議員・請願者より、請願は国民に認められた権利であり、それを制限・侵害するとの質問
に対して、どう答えるのか。
議会の運営規程と憲法及び請願法などによる国民の権利について
見解
まず 参考となる法律等はどうか。
⒈ 憲法第16条「何人も、損害の救済、公務員の罷免、法律、命令又は規則の制定、廃止又は改正
その他の事項に関し、平穏に請願する権利を有し、何人も、かかる請願をしたために差別待遇も
受けない。」
⒉ 請願法第5条「この法律に適合する請願は、官公署において、これを受理し誠実に処理しなけ
ればならない。
⒊ 地方自治法第124条「普通地方公共団体の議会に請願しようとする者は、議員の紹介により請願
書を提出しなければならない。」
⒋ 国会の場合は、「召集日から概ね会期終了日の7日前に締切るのが例とですが、ごく短期間の国
会の場合は、請願の受理をしないことがあります。」
1 議会で締切を規定することはどうか
1) 議会で規定することは、議会運営上の問題であり議会の自律権にかかるものであるから、それ
ぞれの議会の判断によるところであると解されます。
2) しかし、請願の提出については、憲法等の規定により、国民に与えられた「権利」であるか
ら、議会の自律権が、国民(住民)の権利を制限することとなれば、国民に告知する義務が生ずる
のではないかとする疑問が残る。
2 議会の役割等は何か
1) そもそも、議会は住民の意見を審議に反映させることが役割のひとつであり、住民の意見とし
ての請願が提出されたとき、真摯に対応できないのでは、本末転倒です。
3 議案の提出日は「会期中のみ」
1) 従来から、議員や長の議案の提出は、会期中にしかできないと解されている。
会期前の議運等での協議では、「議案となる資料」という扱いとして解されている。
2) 請願においても、同様であり、請願も広い意味での「議案」であり、それを提出できるのは
原則、会期中である。
3) 加えて、「議会開会中であると閉会中であるとを問わず所定の様式が整っている請願が議長
に提出された場合、議長は受理して差し支えないか・・お見込みのと通り。」昭和48年9月25
日付行政実例は、「請願は、閉会中にしか提出できないとする解釈ではない。」
4) 議会は、会期中にしか活動できないのだから、閉会中に「請願」が提出されても、それに対
応できないとする考え方がありましたが、提出と議題・審議とは区別されるものであるとの考
え方に変化しました。
5) むしろ「これまでの解釈が、議会の活動範囲を狭義にしか捉えられず、地方議会の存在意義
を国は「会議(定例会・臨時会)にしか置いておらず、そもそも議会は誰のために、何のために存
在するのか、あるいは議会は憲法93条や地方自治法第89条による「機関・組織」であり組織と
しての活動を全く認知しない、極めて薄弱な解釈に立っていたと思われます。」
4 議題と審議
1) 議会においては、会議規則の規定により、請願文書表により、委員会に付託すれば、済む話で
す。付託された委員会は、審査期間が短ければ閉会中の継続審査にすれば良いのです。それだ
けの手間暇なのに「できない」とする理由が物理的にあば別ですが、住民の願意を反映させる
ことが議会の本来の役割ではないでしょうか。
5 結論
⑴ 少なくとも、請願の提出が「議会運営規程」等の締切日を過ぎても、定例会での議題とする
ことが可能であれば、受理すべきです。
⑵ それは、会期中であっても同様です。議員・長の議案でできて、請願でできないことはあり
ません。委員会では、閉会中の継続審査とすることも可能なのですから。
⑶ できる限り、住民の願意を議会審議に反映させることが、議会の役割であり、議会の存在意
義を高めることになり、また、それは国とは違います。
身近な議会であればこそ、住民は議会にそれを求めています。
⑷ 議会運営規程に規定すること自体は、自律権の範疇ではあっても、それを住民に周知し、理
解を得ることが必要です。
その上で、なおかつ、提出されれば、受理しできる限り、委員会に付託するよう心掛けるべ
きです。
⑸ もちろん、物理的に受理や議題にかけられない状況も考えられます。
請願数が多い、議題等の日程が多く追加等については極力避けたい、会期最終日やその前日
の取扱いは事務的にも審議的にも困難、などの理由もあるでしょう。
⑹ 規定の仕方が、あまりにも請願者の権利を制限するような、規定のあり方は(議会運営委員会
の開催前まで(締切日から開会までに相当数の日数がある)など)、適当ではありません。
⑺ 仮に、このような締切日の規定に対して、住民から、疑義の質問等があると、設問の例では
なかなか納得させられる理由が見当たらず、司法の判断を求められた場合、どうでしょうか。
⑻ このようなことから、すくなくとも、国会のように「会期終了日の〇日前」といった、一定
の会期中の提出を認めるような「規定の仕方」にするべきです。