地方議会制度・運営の考察 シリーズ 14
議長の発言取消し命令の留保って何?
そもそも議長の発言取消し命令に期限はあるのか
議長の発言取消し命令の留保に根拠あるのか
議長の発言取消し命令の留保に期限はあるのか
40数年の経験を活かした地方議会運営等の見解
議会運営アドバイザー、山形県町村議会議長会前事務局長
武 田 裕 樹
問 発言取消し命令の解釈と発言取消し命令の留保について
⒈ 議長の発言取消し命令は、後日でも行えるのか。
⒉ 議長の発言取消し命令の留保を行えるとする解釈があるが、どこに根拠があるのか。
⒊ 議長の発言取消し命令の留保は、いつでも行えるのか。
⒋ 「留保」は、必ず本会議で宣告しなければ、後日、議長の発言取消し命令を行うこと
はできないのか。
⒌ 「留保」により、会議外で精査した結果、不適切な発言として「議長の発言取消し命
令」を行うことになったが、本会議で宣告しなければならないのか。
不適切な発言でなかった場合はどうか。
⒍ この場合の「議長の発言取消し命令」けの根拠は、法第129条によるものか。
解説
⒈ 地方自治法第129条の「議長の発言取消し命令」は、その日の当該発言の際にしかできない。
この条文は、「議会の会議中にこの法律又は会議規則に違反しその他議場の秩序を乱す議員が
あるとき」は「議長が」はじめに「制止し」又は「発言を取り消させ」、「その命令に従わない
とき」は「その日の会議が終わるまで発言を禁止し」又は「議場の外に退去させることができ
る。」とされているが、この手続き・措置は、一連の流れとなっている。
仮に、「発言の取消し命令」を後日にすると「その命令に従わないときの発言禁止」は、いつ
行うことができるのか、いつの発言に対して行えるのか、などとする疑義が生ずることになる。
当然、発言の禁止は、当該発言の制止や取消しに対して、従わないときに以後の発言を禁止す
ることができるものであるから、これらは一連の手続き等によることが条件となっている。
よって、発言の取消し命令は、発言終了以後に行うことができないと解する。
⒉ どこにもない。
地方自治法には、どこにも規定されていない。
会議規則、会議運営規程等などは、一般的には規定されていないと考えられる。
しかし、①発言が不穏当な内容に該当するかどうか即断することは、進行中の会議では実際上
極めて難しいこと、②その日の会議後に判明した不穏当発言について議長の取消し命令が認めら
れないとその日取消しを命じられた発言との均衡を欠くことになること、③議長の秩序維持は会
期中有効に継続していること、④人権(個人情報等含む)、人道的な不適切な発言等が後に明確に
された場合、これを放置すれば、秩序維持ばかりか、議会運営の安定性の欠如さらに議会の信頼
性が問われることに繋がりかねないこと、等の理由により、「取消し命令」の一形態として運営
上の方策として考えられたものと推測される。(例)「〇月〇日の〇〇議員の発言(一般質問)に、不
適切な発言があったと思われますので、後刻精査し、しかるべく措置を行います。」
⒊ できる。前記の理由による。なお、当該会期中に行うことが必要。
なお、当該会期中に、上記のような「留保」の宣告を行うと、その精査や措置は閉会中に行う
ことができると解されている。このようなことから、閉会中に行った精査や措置の場合は、必ず
しも本会議で宣告する必要はないが、次の会議で報告することが望ましい。
⒋ できない。これまでの解釈・解説から考えるとこの結論に至る。
前述しているように、「取消し命令」は当該発言中に行うことが前提となっているが、前述し
ているような理由から一旦、「取消し命令」を「留保」して、後に精査してから措置したいとす
るものであるから、「留保」の宣告は、法第129条の「取消し命令」の「代替え」であり、後に精
査次第では、法第129条に準ずる「取消し命令」を行うことを担保するものと解する必要があるの
で、「留保」の宣告は、少なくとも当該会期中の本会議で行うことが必要であると解される。
つまり、地方自治法第129条の「議長の発言取消し命令」を行うためには、本会議での「留保」
の宣告なしにはできないとも言える。
⒌ 会期中に精査し、結論が至ったのならば、本会議で宣告すべきである。
閉会中に精査し、結論に至ったのならば、必ずしも、つぎの本会議で行う必要はないが、本会
議で宣告することが望ましい。
⒍ 議長の発言取消し命令は、法第129条によるもの以外に規定されていないのだから、いかなる場
合でも法第129条によるものと解釈しなければならない。その理由については、前記⒋による。
⒎ 参考意見
① しかし、そもそも「留保」の規定がないのに、前記⒈での理由から「留保」を「取消し命
令」の一形態と解釈上位置づけているに過ぎない。
規定にないことを、運用上の問題・課題(上記⒉)から、「留保」という考え方をとらざるを得
ないことが、後刻に疑義を生じさせることも考えられる。
このようなことから、明確に「留保と留保による取消し命令」を「規定化」すべきものと解
する。
② そもそも、後日に不適切な発言の処置については、会議規則第64条で「当該議員がその会期
中に限り」取消しを行うことができる。」と規定しているのだから、当該発言の後の取消し
は、本人が行うことが最も適した処置ということが言える。
③ よって、そのような不適切な発言と思われる発言に対しては、後日、本人を交え得て協議
し、本人の申出によれば良いのだが、ここで問題となるのは、本人が了解しない場合に、どう
考えるかである。
④ 議会という組織の立場上、例え、本人が了承しなくとも、議員全体の総意として「不適切」
と判断せざるを得ない場合も考えられる。
⑤ その際に、できる対応が「議長の発言取消し命令」となる。その考え方は、前記で示したと
おりである。
【 参考 】 – 根拠 –
1 法第129条(議場の秩序維持)
「又は発言を取り消させ、その命令に従わないときは、その日の会議が終わるまで発言を禁止
し、又は議場の外に議長は、会議中にこの法律又は会議規則に違反し、その他議場の秩序を乱す
議員に対して、これを制止し、退去させることができる。」
2 法第104条(議長の議事整理権・議会代表権)
「普通地方公共団体の議会の議長は、議場の秩序を保持し、議事を整理し、議会の事務を統理
し、議会を代表する。」
3 会議規則第64条(発言の取消し又は訂正)
「議員は、その会期中に限り、議会の許可を得て自己の発言を取り消し、又は議長許可を得て
発言の訂正をすることができる。」