地方議会制度・運営の考察 シリーズ 15
他の議員が「発言取消しを求める動議」を提出できるか
通告外の発言を全部取り消すことはできるか
40数年の経験を活かした地方議会運営等の見解
議会運営アドバイザー、山形県町村議会議長会前事務局長
武 田 裕 樹
問 A議員は、B議員の一般質問が終わったあとに、本会議で「B議員の一般質問に対する
発言の取消しを求める動議」を提出したいが可能か。この場合、取消内容によって、でき
きると解することは可能か。
解説
前段
⒈ 以下の理由から私は「できない」と解する。
① 議員の発言の取消しには、会議規則第64条による「自らが発言を取り消す」ことと、地方
自治法第129条による「議長の発言取消し命令」しかないこと。
② 議員の発言は保障されていること。(議員の発言自由の原則)
③ この動議が可能であれば、多数によって、一定の議員の発言を侵害・制限、抑圧する方法
となり、民主主義に反するものと考えられること。
④ 議会制度・運営が多数の議員によって、コントロールされる恐れがあること。
⒉ 他の議員の発言の取消しについては、法第129条の議長の発言取消し命令を求める動議を提出
すべきである。
後段
前段の理由により、「できない」
参考 - 根拠等 –
1 発言自由の原則
⑴ 地方議会議員には、国会議員のような免責特権などはないが、①憲法で言論は保障されている
こと、②議会は合議制により複数人で協議すること、③議会は原則口頭による発言が中心に行わ
れる、言論の府であること、④議員は住民の代表者であり、住民の意見を反映させることが役割
であること、- などの理由から 「議員は、議員のとしての職責を全うするために、議員としての
発言が十分に保障される」 これが「発言自由の原則」と言われている。
⑵ 議員には、このように発言自由の原則があり、「自由な発言が保障」されているので、いかな
る思想・信条にたつものでも許される。
2 一方で、議員は、公職にある公人・政治家としての社会的な影響力により、議員の発言には
責任が伴うので、安易に取消しはできない。
3 議会で行う発言には、地方自治法や会議規則等による「ルール」があり、議員はそれを遵守
しなければならない。
4 発言の取消し
⑴ 会議規則第64条(発言の取消し又は訂正)
「議員は、その会期中に限り、議会の許可を得て発言の取消しを行うことができる。」
⑵ 地方自治法第129条(議場の秩序維持)
「普通地方公共団体の議会の会議中この法律又は会議規則に違反しその他議場の秩序を乱す議
員があるときは、議長は、これを制止し、又は発言を取り消させ、その命令に従わないときは、
その日の会議が終わるまで発言を禁止し、又は議場の外に退去させることができる。」
問 会議規則第64条により、通告外の発言・質問について以下の場合はどうか。
⒈ 当該議員の一般質問中に、通告にない質問をし始めたとき
⒉ 通告にない質問がすべて終了し、議長は長(説明員)に答弁を求めたが、長はそれは
通告外の質問だと指摘し答弁を拒否したとき
⒊ 通告にない質問、答弁が終了した後に、通告にない質問だったことが判明したとき
議長は、全文を取り消すことができるか
解説
⒈ 議長の判断により、発言を制止・注意することは可能である。また、議長は一旦、休憩し、当
該議員に問うことによって、通告の関連として認めることも考えられる。
⒉ 長は、通告外だとして答弁を拒否することは考えられる。しかし、議長が認めた質問であるこ
とに鑑み、できる限り答弁することが求められる。また、その質問に対して、準備が出来ていな
い場合も考えられる。このような場合、「後ほどお答えします。」などと回答することも考えら
れる。
⒊ 例え、通告外の質問であっても、議長が認め、さらに長が答弁している以上、それは質問とし
て完結しているので、後刻、通告外だったとして、全文を取り消すことはできない。
⒋ 関連質問は、主に、他の議員がしようとするもので、当該議員が通告質問の内容に関連付けて
その質問内容を広げていくことは、実際、よく聞くことであり、照会もある。
ある程度の幅は、議長の判断によるところであるが、まるっきり違う方向性の質問や飛躍した
内容であれば、議長は制止する必要がある。
「風が吹けば桶屋が儲かる」的な発想で、次々に広げられては通告制の意味をなさない。
参考 - 根拠等 –
1 会議規則第54条(発言内容の制限)第1項第2項
「発言は、すべて簡明にするものとし、議題外にわたり又はその範囲を超えてはならない。」
「議長は、発言が前項の規定に反すると認めるときは注意し、なお従わない場合は、発言を禁
止することができる。」
2 会議規則第64条(発言の取消し又は訂正) (上記による)
3 地方自治法第129条(議場の秩序維持) (上記による)