起立表決の課題と対応

地方議会制度運営の考察 シリーズ3

表決の方法は? 現行の起立表決では人数を確定できない?
起立表決では議長の裁決権は行使できない? 表決による「有効票」と「無効票」とは

40数年の経験を活かした地方議会運営等の見解     
議会運営アドバイザー、山形県町村議会議長会前事務局長
武  田  裕  樹

Ⅰ 表決

1 表決とは
 「議事手続きにおける一個の問題に対して議長の要求により出席議員が最終的に賛否の意思を表示して可とする議員と否とする議員の多寡を比定すること。」と言われています。ちなみに「採決」は議長が表決を採る行為と言われています。

2 表決の3原則
➀ 表決には、条件を付けることができない。(会議規則第80条)
② 議員は、自己の表決の訂正を求めることができない。(会議規則第86条)
➂ 表決の宣告の際、議場にいない議員は表決に加わることができない。(会議規則第79条)


3 過半数議決の原則
 「この法律に特別の定めがある場合を除く外、普通地方公共団体の議会の議事は、出席議員の
 過半数でこれを決し、可否同数のときは、議長の決するところによる。」(法第116条①)
 「前項の場合においては、議長は、議員として議決に加わる権利を有しない。」(法第116条②)
 例外「この法律に特別の定めがある場合」(法第116条➀) 例示・・法第115条➀但し書きの
 「秘密会の要件」「出席議員の3分の1以上の多数で議決」等。

Ⅱ 表決の方法

1 表決の種類
➀ 投票表決(会議規則第82条)
 議長が認めるとき、又は出席議員〇人以上から要求があるときです。
 記名投票か無記名投票かで表決を採ります。
 議場の閉鎖などを行い、以後の手順や決定に関する細部が示されていることから、厳密性があ
 り、かつ厳正に行われる方法です。
 一方で、運営時間がかかることや手続きなどが煩雑となり能率的とは言い難いなどの理由があ
 ります。
 結果、票の判定により可否同数のときは、地方自治法第116条の議長の裁決権を行使することが
 できます。
② 起立表決(会議規則第81条➀②)
 「議長は、表決を採ろうとするときは、問題を可とする者を起立させ、起立者の多少を認定し
 て可否の結果を宣告する。」
 議長が起立者の多少を認定し難いとき、又は議長の宣告に対して出席議員〇人以上から異議が
 あるときは、議長は、記名又は無記名の投票で表決をとらなければなりません。
 この表決は、議案等の審議において、比較的、結果が予測される場合に、議会運営の能率・効
 率性の観点から、通常の表決では、この起立採決を用います。
➂ 簡易表決(会議規則第87条)
 議長は、問題について異議の有無を会議に諮ることができる。異議がないと認めるときは、議
 長は可決の旨を宣告します。
 議長の宣告に対して、出席議員〇人以上から異議があるときは、議長は、起立の方法で表決を
 採らなければなりません。
 議案等の審議において、比較的結果が予想される場合や議案等の審議以外での議会の比較的容
 易な決定に対して用います。
④ 挙手採決
 議会によっては、起立ではなく、「挙手」によっているところもあります。
 標準会議規則には規定されていないので、これを用いている議会にあっては、⑴会議規則に規
 定する、⑵運用規程に規定する、⑶先例・慣例等による、などの方法により活用しています。ただ
 し、⑶「先例・慣例」では、根拠が希薄であることから、⑴か⑵によることが適当です。
 起立と挙手では、「立つ」か「手を挙げる」かの違いなので、差はほとんどありません。
  また、起立採決同様、挙手している者の「多少の認定」を行うことになります。

Ⅲ 起立表決の課題

1 起立採決の留意点(現行会議規則の解釈)
 起立(挙手)表決での会議規則の規定による「多少の認定」とは、議長が起立している者を「ぱっと
 見」起立者が全体(出席者)の過半数以上の者となっているかを確認・認定して宣告するのみです。
 故に、表決の意味である「賛否の意思表示」は、可とする者だけの意思を問うているので、否とする
 者の意思を問うていないから、可否を比較することはできません。また、会議規則の規定上、何ら規定
 されていないことも含めて、起立者と起立しない者の人数や氏名を確認できないことを意味します。
 やろうと思えば、起立している者については、人数の確認を行うことはできますが、それをもって起
 立しない者とを賛否で比較することはできません。
 つまり、起立しない者の中には、反対者・棄権者(どちらにも意思表示したくない者)がいると考えら
 れており、さらに反対や棄権の意思表示がないからです。
 もちろん、採決後に起立しない者に対して、「貴方は、反対でしたか」などと言った確認をすること
 はできません。
 よって、議会広報などに議案の表決における、賛否の氏名公表は起立採決ではできません。
 特別対数議決は、現行の会議規則による起立表決では、前述のことから明白です。

2 誰にでも人数が一目瞭然  違和感が生ずる起立採決
 昨今の町村議会では、議員定数の大幅減少から、起立採決の際の起立者と起立しない者の人数や氏名
 が容易に判別できます。
 議長は、裁決の結果、起立者と起立しない者が同数であっても、多少の認定ですから、起立者対
 数、あるいは起立者少数との宣告、議長が認定し難いので投票、議長の宣告に対して異議による投
 票、などの方法によらなければなりません。

3 過半数議決とは  ‐ 票の有効と無効 ‐
 そもそも過半数議決とは、可否のどちらかが「議場における表決の権利を有する議員の全体の半分を
 超えているかとどうかによって、決定されるものです。
 このようなことから、起立採決の場合は「可とする者を起立させ」、起立している者が全体半分以上
 かを判断することにあるので、「起立しない者」が、否か棄権者か、などという詳細を把握する必要は
 まったくありません。
 投票においても、賛成票が全体の過半数を超えているかどうかによって、決定されるものであり、反
 対や白紙、他事記載などといった票は、本来まったく問題になりません。「問題にならない」とは、
 「賛成票」さえ明確であれば良いとの意味です。
 明確な賛成票以外の票で、疑義が生ずるときは「立会人の意見を聴いて議長が決定します。」
 もちろん、投票表決の結果として、票の詳細をも宣告することが一般的ですから、その際には、出席
 者〇名、投票総数〇票、うち有効投票〇票、無効投票〇票、白票〇票などと宣告しています。
  また、「会議録」への掲載のためにも、このような宣告は必要かと考えます。

Ⅳ 起立表決の際の応用

1 起立採決での人数・氏名の確認
 まず、前提となるのは、地方自治法第116条は「過半数議決とそれによる可否同数の際の議長の裁決権」を規定しているのであって、表決の種類や表決のやり方については特に明記していません。このことを理解すべきです。
 起立採決で人数や氏名を確認するためには、まず起立しない者を明確にする必要があります。
 その方法としては、
  議長は、会議規則第84条の「白票の取扱い」に準じて、起立しない者は「否」とみなすと宣
  告します。このとき、棄権者が退席できるだけの時間的余裕を作ることが必要です。
  可とする者を諮る原則の例外として「可とする者の起立」と「否とする者の起立」を行うこと
  も考えられます。これによって、どちらにも起立しない者は「棄権者」と確定することができま
  す。
  これらの方法では、議長・事務局長は人数と氏名を確認する必要があります。
 議長の裁決権の行使
  可否の人数と氏名、棄権者の確認ができた上で、可否が同数の際は、「議長の裁決権を行使す
  る」ことができます。

2 議長の宣告による方法
 表決の都度、議長の宣告によって行うことができます。
  当然に、議員全体で起立表決の際には、このような方法でやることを明確にしておくことが不
  可欠です。
  会議規則や運用規程などを改正・規定化した上で、さらに議長の宣告を行うことも考えられま
  す。この方法がベストです。
 議長の口述の例
 ⒈ 賛成の者を起立させ、起立しない者は否とみなす方法
   「表決は、起立で行います。なお、起立しない者は「否」とみなします。また、これにより可
  否同数のときは、地方自治法第116条の規定により、議長の裁決権を行使します。」(ここで、退
  席する者のために若干の時間を置くことが適当。)「それでは、賛成の方の起立を求めます。」
  「賛成者〇名です。」(起立している者の人数と氏名を確認する。)「賛成者〇名、反対者〇名で
  す。よって、原案は可決(否決)されました。」又は「賛成者〇名、反対者〇名です。これにより
  可否同数となりましたので、議長の裁決権を行使します。議長は賛成(反対)です。よって、原案
  は可決(否決)されました。」
 ⒉ 賛成の者と反対の者をそれぞれ起立させる方法
   「表決は、起立で行います。可否同数のときは、地方自治法第116条の規定により、議長の裁
  決権を行使します。」「それでは、はじめに賛成の方の起立を求めます。」「賛成者〇名で
  す。」(起立している者の人数と氏名を確認する。)「つぎに、反対者の方の起立を求めます。」
  (起立している者の人数と氏名を確認する。)「反対者〇名です。」「なお、起立しない者が〇名
  おります。これは棄権者であり無効票となります。」(棄権者の人数と氏名を確認する。)「よっ
  て、賛成者〇名、反対者〇名、棄権者〇名(無効投票〇票)です。よって、原案は可決(否決)され
  ました。」又は「賛成者〇名、反対者〇名、棄権者〇名です。これにより、可否同数となりまし
  たので、議長の裁決権を行使します。議長は賛成(反対)です。よって、原案は可決(否決)されま
  した。」

3 会議規則、議会運営規程などの改正、規程化
➀ 会議規則の改正
  起立採決の規定を「多少の認定」から「人数と氏名を確認し」等に改める。
  起立しない者を「否」とみなす規定を盛り込む。(反対者を起立させないとき)
  起立表決の際は、賛成者を起立させ、つぎに反対者を起立させることを明記する。
② 運営規程等の改正等
  会議規則は改正せず、上記の「会議規則の改正」の内容を規程に明記する。例、「会議規則第
  〇条の規定にかかわらず、〇〇とすることができる。」など。
  表決の際は、そのたびに議長が宣告することを盛り込む。

4 投票表決との明確化
➀ 投票表決における無記名と記名(会議規則第82条➀②)
  投票表決では、「無記名」と「記名」の2つの方法によることができます。
  このうち、「無記名」は誰が可か否に投票したかがわかりません。
  「記名」は誰が可か否か、あるいは棄権か、さらには誰が他事記載等によって「無効票」となっ
 たかが、明確にされます。
 このことは、前述している「人数を確認する起立表決」が、同様の効果を生ずることを意味し
 ています。当然、氏名の公表も誰にでも明確にされてしまいます。
 「投票表決の記名投票」と同様の効果が生ずる「起立採決」とどのように使い分けていくのか
 が検討されることになります。
 さらに、「投票表決の無記名投票」は、いずれの場合に用いることを想定するするかという検
 討も必要になります。

Ⅴ デジタル化議会への新化  ‐ 電子採決の導入 ‐

1 明確性と効率・能率性の充実
 起立者、挙手者の明確性において不安定性が伴うので、電子採決では賛否の意思・氏名、棄権
 者等が明確に表示、理解されます。
 起立や挙手といった行為からスイッチを「押す」という簡単な行為で済む。
 採決にかかる時間が、従来より短時間となる。

2 煩雑から簡略・簡便へ
 投票には、議場の閉鎖から、はじまる一連の手続などがあり、また、投票箱や投票用紙などの
 物品の用意なども含めてかなりの煩雑となり、時間もかかります。しかし、電子採決では、それら
 の一連がかなり簡略・簡便化されるので、短時間で終了することから、能率的で効率的と考えられ
 ます。

3 課題
 「押す」「表示」の一連によって、どの時点で確定とするのか。投票漏れを確認するのか。
 賛否や氏名が明確化されることは、投票用紙による投票や起立・挙手採決とどのように区別さ
 れていくのかを検討しておくことも必要です。
 電子採決における一定のルール化、手続き等をまとめた「運営規程」「要綱」等を策定する必
 要があります。
 電子採決では、トラブル(主に機器等)がありますので、その際にどのような方法により、「表
 決」を行うのかを検討しておく必要があります。

※ 文中の「会議規則」は「標準町村議会会議規則」です。

次回は「議員の辞職日とその効果の時期」です。