地方議会制度運営の考察 シリーズ1
議会の活動は会期中のみ有する ⇒ 会期は会議を継続する期間
議事機関の活動は「ない」の ⇒ 組織の目的・運営・構成員に関する活動は?
議事機関の付属組織は作れないの ⇒ 政治倫理審査会等の位置付けは?
40数年の経験を活かした地方議会運営等の見解
議会運営アドバイザー、山形県町村議会議長会前事務局長
武 田 裕 樹
4つの疑問
➀ 議会を指すのは「議事機関」か「定例会・臨時会」か
② 議会に関する条例を制定することができるか
➂ 住民との対話 単独の会議・会合(ワールドカフェ等)を実施できるのか
④ 付属機関や調査機関を設けることができるのか
地方分権が地方議会を大きく変えた
平成12年4月(平成11年7月成立)に、地方分権一括法が施行され、国と地方の役割分担の明確化、機関委任事務の廃止、国の関与のルール化等が図られました。
地方分権改革は、地方分権改革推進委員会(平成19年発足・平成22年廃止)の4次にわたる勧告や平成26年に導入した提案募集方式による取組等を踏まえ13次にわたる地方分権一括法が成立しました。第1次から第13次までの地方分権一括法は、地域の自主性及び自立性を高めるための改革を総合的に推進するため、国から地方公共団体又は都道府県から市町村への事務・権限の移譲や地方公共団体への義務付け・枠付けの緩和等を行いました。
これによって、地方公共団体は、自らの判断と責任により、地域の実情に沿った行政を展開・経営してくこととなりました。
地方議会は重要な機関となり重大な責任をもつ
これまでの地方議会は機関委任事務、義務付け・枠付けといった縛りの中で、議会の果たす役割は決して大きくはありませんでした。
しかし、地方分権によって、地方公共団体が自主的に経営していかなければならないことは、地方公共団体の最終意思決定機関である「地方議会」の重要性の増大と重大な責務を負うことを意味します。つまり、「議会」は「決定」に対する責務を負わなければなりません。
そのため、これまでのように、漠然と与えられたものを本会議や委員会に出席して審議するだけでは済まされません。審議に際しては、根拠・論拠によって、それを検証し、意見・提言、提案をすることが求められます。それが、政策形成・立案機能や能力と言われるもので、この強化・向上が現代議会では、不可欠な「要素」と言われています。
地方議会の決定は、自治体の意思であり、住民の福祉等の向上などに大きく影響を及ぼすことになり、議員ひとりひとりに、重大な責任が伴うことになりました。
議員定数の大幅減少と議員のなり手不足
人口減少社会の中、増大する様々な地域社会の課題について、民主的に合意形成を進めていく上で、地方議会の役割は重要ですが、他方、平成の大合併による市町村合併等の影響もあり、議員数が減少する一方、地方議会議員選挙の投票率が低下し、無投票当選の割合が増えていることや定数割れ等に見られるように、議会に対する住民の関心が低下しており、人口減少・高齢化とも相まって、議員のなり手確保が深刻化しています。
これは、特に町村議会に顕著に表れています。
住民の関心度の低さは、今に始まったことではなく、日本人の歴史的な部分が大きく占めていると感じられます。歴史家ではないので、詳しくは申し上げられませんが、領主・庄屋制度や参政権(租税、女性、年齢等)の経緯・問題点など、住民にとって議会は特別な存在であり、近寄りがたいとの認識がその要因のひとつであるといえるのではないでしょうか。加えて、昨今の国際社会情勢の中で多様化する価値観、個人化社会、自分のための時間などによって、住民自治への希薄さが生じているとも言えるのではないでしょうか。
そこで、国は、「地方議会のあり方研究会」「地方制度調査会」などで議論を重ねて、また全国町村議会議長会など三議長会でも様々な調査を行い、その報告をまとめています。
その各機関・団体などの報告の詳細は除きますが、特に男女・年代・職域など多種多様な各層からの立候補者が生まれるよう、議会にも、その対策を講じるよう提唱しています。
Ⅰ 「議会」を指すのは「議事機関」か「定例会・臨時会」か
1 地方自治法の違和感
➀ 地方自治法は議会制度・運営の基本法
憲法第93条の規定を受けて、地方自治法の第89条から第138条の「第6章議会」が、議会制
度・運営等の基本法となることはいうまでもありません。
② 地方自治法に規定されている条文の傾向
第89条から第95条までは第1節「組織」として、議会の設置や定数、任期、身分にかかる事項
が規定されていますが、それだけです。
第2節からは「権限」となります。この権限からの条文を見ると、そのほとんどが「定例会・臨
時会」(通年会期)にかかる、いわゆる「本会議」に関する議会運営上の規定です。(第11節除く)
2 議会の活動は会期中しかできない(有しない)!
➀ 議事機関は組織のはず ‐ 一般的常識・解釈と憲法の議会の解釈は異なるのか ‐
憲法第93条「地方公共団体には、法律の定めるところにより、その議事機関として議会を設置
する。」
地方自治法第89条第1項「普通地方公共団体に、その議事機関として当該普通地方公共団体の住
民が選挙した議員をもって組織される議会を置く。」(令和5年5月改正)
議事機関は「組織」です。組織とは、共通の目標を有し、目標達成のために協働を行う何らかの
手段で統制された複数の人々の行為やコミュニケーションによって構成されるシステムのことと言
われています。
では、議会はどうでしょうか。前述では、確かに「議事機関」と規定していますが、地方自治法
第102条第1項では「議会は定例会・臨時会とする。」と規定しています。この関係性をどのように
考えていくのでしょうか。
② 議会は定例会・臨時会 ‐ 地方議会は会議の名称 ‐
前述のとおり、地方自治法第102条第1項で「議会は定例会と臨時会とする。」と規定し、その解
釈においては「会期とは、議会が会議を継続して行う期間であり、議会は会期中に限り活動能力を
有する。」としています。
これは、定例会や臨時会は本会議等を行うため、会議を継続するための期間と解釈しています
が、その会議で決定されたことの実行・その後の活動、手続き、管理、組織の維持・運営、構成員
等、あるいはその定例会・臨時会における会議等を行うための全ての活動を含んでいるわけではあ
りません。
➂ 定例会・臨時会は、あくまで会議等の活動のための期間
国会は、憲法第41条「国会は、国権の最高機関であって、国の唯一の立法機関である。」
憲法第52条「国会の常会は、毎年一回これを召集する。」
憲法第53条「内閣は、国会の臨時会の召集を(以下、略)」
国においては、立法機関という組織の「会議」と位置付けた規定となっています。実に明確で明
瞭で、一般的にも理解できる規定となっています。
しかし、地方議会はどうでしょうか。前述しているように、決して「定例会・臨時会」が「議事
機関」という組織の会議という位置付けになっていないのです。その会議の期間しか、議会は・議
員は活動ができないことになっています。
3 地方自治法に見る議事機関の活動ではないの?
前述した「議会活動は会期中のみ有する」という解釈により、「議事機関としての議会のすべての活動に及ぶ」と考えたらば、⒈議事機関としての議会は何なのかという疑義があり、さらに、⒉社会での一般的な解釈から乖離していると言えます。加えて、⒊地方自治法上でもおかしな点がいくつか見受けられます。
➀ 地方自治法第101条第2項、第3項
「議長と議員の臨時会招集請求権」の規定ですが、当然、招集請求するのは閉会中であり、その
手続きにかかる活動は、れっきとした議員の活動であり議会の活動の一部です。これをどのように
解釈するのでしょうか。例えば、招集請求書の文書を提出するために議会事務局に向かっている途
中で事故にあった場合、公務とはならないのでしょうか。
② 地方自治法第100条第12項
「協議・調整の場」は、永らく全国町村議会議長会をはじめとする全国3議長会が要望してきた
ものですが、平成20年6月に議会の活動範囲を明確化するため、「議案の審査又は議会の運営に関
し、協議・調整の場を設けることができる。」こととされました。
この規定の特徴は、「全員協議会(例)」など従来の任意的な会議を「公務の会議・議員活動」と
して認められたものです。(会議規則に明記)
しかも、この「会議・場」は、会議規則の規定で「議長の招集により、閉会中でも開催でき
る。」と解釈されていることにあります。
当初、私は「議会の活動は会期中のみ」とされており、「閉会中に活動するためには、一定の手
続により議会の決定を得るか、ただし書きにより閉会中に議長が決定することができる」のであっ
て、「本会議の決定や一定の手続を踏まずに、直ちに議長の招集により行える」との、解釈には
「異議」を唱えましたが、一方で、全国町村議会議長会をはじめ、広く識見者において「閉会中で
も議長の招集のみで開催できる」という解釈で、進められています。
しかし何故に、これだけが「地方自治法第102条の規定の解釈の例外的な規定」となるのか一定
の根拠を示していただきたいものです。
これができるのであれば、条例等により「閉会中の他の会議・会合も例外」とすることは可能で
あるといわざるを得ません。
さらに、このことは、「協議・調整の場」が本会議の内部の会議・会合ではなく、議事機関の内
部会議・会合だから、「閉会中にできる。」と解釈することの方が、妥当性があり、合理的だと思
われます。
➂ 地方自治法第138条
議会事務局の設置と職員についての規定ですが、議長が議会を代表する立場であり、職員の任命
権者であることなどから、議長が議会事務局を統括し、職員の監督責任を持つと考えられます。
では、この議会事務局は議会の活動を有しない閉会中に業務を行うことができるのでしょうか。
議会事務局設置条例では、執行機関の職員に関する諸規程を準用するなどの規定を設けているよ
うですが、そもそも議会の活動を有しない、活動根拠がない組織の業務ができるのでしょうか。
同法第7項の「議会に関する事務に従事する」の「議会」は「憲法第93条の議事機関」か「地
方自治法第102条の定例会・臨時会」を指すのでしょうか。
むろん、常識的にも「議事機関」としての「議会」を指すと理解しなければ、1年を通して、議
会事務局の業務をこなすことはできないと考えるざるを得ません。
4 本会議の活動期間と議事機関の活動期間 ‐ 議事機関の活動は「会期中」に縛られない ‐
➀ 会議(本会議・委員会)の活動期間
前述している、「「会期」とは議会が会議を継続して行う期間であり、議会は会期中に限り活動
能力を有する。」という解釈は、広く認識されています。
② 議事機関の活動は会期(会議を継続する期間)に縛られない!
当然に、議事機関であれば、「会期」に縛られるものではありません。議事機関には議事機関と
しての活動があります。
➂ このことは、昨今の国際社会情勢等による地方議会のあり方やそれらに伴う地方自治法の改正
や国等が地方議会に求める内容にも、「会期」に縛られることのない「議事機関としての活動」を
認識しないと応えられない状況になっています。
Ⅱ 議事機関の活動がなければ組織は動けない
1 国の要請等に見る議事機関の活動 ‐ 議会の議員の管理・監督責任等の対応を求めている ‐
➀ 地方議会は積極的に取り組むべき
政治分野における男女共同参画の推進に関する法律(平成30年5月)の一部改正(令和3年6月)に
は、正当などがより積極的に取り組むこと、地方公共団体の議会などが適切な役割分担の下でそれ
ぞれ積極的に取り組むこと、が明記されています。このこと自体に異論をはさむものではもちろん
ありませんが、注目されるのは、議会の議員の構成について、議会で積極的に取り組むことを要請
している点にあります。今更ながらですが、議会は住民の安心・安全のための社会資本・基盤整備
などまちづくりのための施策等に対する最終意思を示すところです。その意思を示すための議会は
定例会・臨時会です。
しかし、国が議員構成にかかる課題を「議会」に積極的に取り組むよう要請することは、本来の
定例会・臨時会での団体意思を示すこととは無縁のものです。
増して、議員は住民によって選挙されるのですから、本来、住民が議会の構成を一番に考えてい
かなければならないものです。加えて、住民の代表である議員を選ぶのも住民ですから、その代表
者を誰にするのかを探すのも住民のはずです。
とは言え、現状そうもいかないのでしょう。
であるならば、前述しているように、本来の会議とは異なる活動であることは間違いありません
から、これはれっきとした「議事機関としての議会」での活動と言えます。
② 具体的な取組み要請
第33次地方制度調査会の多様な人材が参画し住民に開かれた地方議会の実現に向けた対応方策
に関する答申(令和4年12月)では、以下の要請がありました。
⒈ 欠席届の改正
出産や育児、介護等に携わる者が議会に参画する上での障壁を排除するために、欠席届の明確化
を図ることとして、会議規則第2条が改正されました。改正の仕方には異論がありますが、改正の
目的には異論はありません。
ただし、「会議の欠席」とは言え、このような手続きそのものは、総務的なものであり、それに
伴う行動・活動はまさに議事機関・議員としての活動と捉えるのが一般常識だと思います。
また、この度の改正では、新たに出産に対しては、労基法での産前産後8週間という期間を明
記することとしました。もちろん、全国町村議会議長会などは「直ちに議会に労基法が適用され
るものではないが、参考とすることは考えられる。」としています。
そもそもなぜ、会議の欠席届なのに、会期の短い町村議会に閉会中を含むこの期間を明記しなけ
ればならないのか、という疑義があります。
さらに、この会議の欠席の届出は「自己申告制」です。議長の許可によるものではありません。
本人が「欠席の事由を正当な理由と判断している以上それを受理しなければなりません。」
一方で、その理由が正当な理由に当たらないと議長や議員が判断したのならば、法第137条の規
定によって、「出席催告」「懲罰等」の措置を行えば良いのです。
もちろん、それに対して本人が不服と感じれば、司法の判断を求めることになるでしょうが。
昨今の国際社会情勢の中では、「出産・育児・介護等」の理由を「正当なし」と判断することは
できないと考えられます。規定に書かなくても当然のことなのです。
ただ、この度はこれ以上それを論ずるのではなく、注目は国も全国会も「会議の欠席なのに閉会
中の議員の活動の休止を視野にいれた改正として、労基法を参考に議員の就業規則的な部分までに
も、踏み込んでいることにあります。」
さらに、この度の改正では、現在、社会的にも課題とされる労働者の「出産・育児・介護」とい
ったことまでも、議員への適用として、議会の取り扱いとしているところにあります。
もはや、これは「議員の管理・福利厚生などにかかるものであり、議事機関としての範疇である
と言えます。」
⒉ ハラスメント防止のための研修や相談体制の整備等を行うこと
従来から議会は議員に対しての研修会を実施していますが、「議会・議員の役割、責務・職責の
完遂のための議員の資質向上を図る目的」です。
しかし、国が要請しているのは、特に会議外での議員のハラスメント等に対する認識・自覚等の
醸成です。これは、本来の議会の役割・目的には全く関係のない話です。議員の品位等は、本来、
自らが自覚し認識すべきものです。
議会が手取り足取り教えて行くものではありません。ましてや、会議外であれば、なおさらで
す。だって、議員は会期中にしか議員活動はないのだから、さらに地方自治法は会議中の議員の言
動に対する「措置」しか明記していないのだから。(一定の手続により閉会中の活動あり)
しかし、そのようなことを言っている場合でもないことは十分理解できます。
それは、今日の国際社会情勢等に鑑みても明確であり、法の趣旨がそこまで行き届かなくても、
議会という「組織」が議員の管理・監督責任を果たすことが求められていることは十分に感じ取れ
るはずです。
➂ 各種の議員等にかかる条例等の策定
新個人情報保護法にかかる議会の個人情報の保護に関する条例や議会議員の請負の状況の公表に
関する条例、請願の電子受付・意見書の電子提出や議案、通知等の電子措置などに関する情報通信
技術の活用に関する規程など、昨今の議会を取り巻く環境が目まぐるしく変化する中にあって、こ
れらを策定の決定をするのは本会議であっても、その内容やその手続き、実施等に関しては最早、
誰の目にも「議事機関としての組織」にかかるものと判断されるのではないでしょうか。
2 国際・社会情勢等の中で ‐ 住民の目 主権者は住民 ‐
議会の管理・監督責任は法律で推し量れるものではありません。
現代社会は、国際社会の中で、多様性(ダイバーシティ)、LGBTQや誹謗中傷など多くの課題を抱えており、「人権」はもっとも尊重されなければなりません。
当然に、議員にも倫理が問われます。会議内の議員の言動に対しては、懲罰という措置がありますが、会議外での議員の言動にはそれがありません。
しかし、議員は公職の公人であり、常に政治的責任、道義的責任が伴い広く倫理が問われます。
例えば、飲酒運転や政治と金、ハラスメントなどに対しても例外ではありません。議員自らが責任をとることが考えられますが、議員自身が何の対応も取らなければ議会に対して、住民は何かしらの対応を求めてくることが十分にあります。
「議員は労働者ではない」「議長と議員には雇用関係はない」「議会は職場ではない」等と言われてきましたが、法的にはまさにそのとおりです。
しかし、前述しているように、国際社会情勢の中で、国も国民も至極当然のように、一般社会と同様・同等の適用と考えるようになっています。
まさに、「議会は、議員の管理・監督責任が現実的には存在する。」と考えなければ対処できないところに来ているのです。
Ⅲ 議会に関する条例を制定することができるか
1 議会の条例制定は 作れない から 作れる に
憲法第94条「地方公共団体は、(中略)法律の範囲内で条例を制定することができる。」地方自治法第96条第1項「議会は、次に掲げる事件を議決しなければならない。」、同項第1号「条例を設け、又は改廃すること。」
➀ 議会に関する具体的な条例(法等で規定)
地方自治法第90条第91条「議員の定数条例」、第100条第14項「政務活動費交付条例」、第109
条第9項「委員会条例」、第138条第2項「議会事務局設置条例」等があります。そのほかにも、執
行部に合わせる形で制定しているものや議会独自の条例等を制定しています。
② 法律等による義務付けでない条例等
前述している議会の個人の情報の保護に関する条例など、最近はいくつもの例が示されています
2 議会の「組織」に関する詳細規定はどこにもない?
➀ 地方自治法第6章「議会」第1節「組織」に関する詳細規定はない?
前述した「組織」に関する規定には、「議事機関」としての運営等に必要な詳細規定がどこにも
示されていません。(第138条除く)
組織である以上、組織を維持するための規定等は、一般社会においては至極当然ではないでしょ
うか。
② そこが問題なのです。(昨今の国際社会情勢等の中での議会のあり方をも含めて)
地方分権以前の国と地方公共団体の関係から、地方議会のあり方は「本会議(委員会含む)」とい
う会議だけを考えていけば良い時代だったのかもしれません。
しかし、今は違います。
地方分権により地方議会の重要性や重大性から、また現代の国際社会情勢等に鑑みて、「本会
議」は地方公共団体の最終意思を決定する会議ではあっても、そこに至るため、それ以後の議事機
関としての様々な活動があります。
加えて、議会の構成員たる議員は、常に公職としての公人としてのあり様を主権者たる住民に示
していかなければなりませんので、そのための組織としての活動があります。
このように考えると、組織の活動として、総務活動や政務活動・調査活動など組織の維持・管
理、構成員の服務等、本会議のための事前準備・事後処理等多くの活動があります。
3 条例は「法律の範囲内」でなければならない
⒈ 憲法第94条の「法律の範囲内」とは
➀ これまでの地方公共団体が作る「条例」については、「原則、法律の授権がないと条例は作れ
ない。」と解釈されてきました。※授権とは権限を与えられていること。
② それが、前述した条例制定権の拡大をうけ、特に議会の条例制定については「法律の明示的な
委任がなくても、法が禁止していない限り、議会の判断で行使できる。」との解釈に変わったと言
われてきました。
➂ 条例の制定には、「立法事実」が必要とされますが、これは条例の目的と手段を基礎付ける社
会的な事実(データ、住民意識等含む)を言い、立法事実は法律や条例の必要性や正当性を根拠付け
るものであり、立法法務の重要なポイントとなります。この最たるものが、「議会基本条例」と言
えます。その後には、議会運営等に関して数多くの条例が制定されています。
4 議事機関の詳細規定を作ろう!
議事機関としての定款は「議会基本条例」にあるといっても良いのではないでしょうか。
もちろん、本会議等にかかる部分が数多くあります。
議事機関としての議会の目的、運営等を明確にし、そのための活動・業務等の根拠となる規程を明
記することで、組織としての活動を保障することになります。
これが根拠となって、会期に縛られることなく、1年を通して議員も職員も活動することができるのです。
議会の基本条例は、議会の憲法であるとともに、定款に位置するものと考えることができます。
この議事機関としての組織の条例は、いわば憲法第93条による「議事機関」、地方自治法第89条第1項の「議事機関」に対するものであり、地方自治法第6章「議会」第1節「組織」の規定の「横出し」と考えれば、いわゆる「法律の範囲内」と言えるのではないでしょうか。
Ⅳ 住民との対話の機会と付属・調査機関の設置は可能か
1 定例会と臨時会の付属機関
地方自治法には、第6章議会、第5節委員会、第109条に常任委員会、議会運営委員会、特別委員会を条例で設置することできる、と規定しています。また、第100条第12項では「議案の審査又は議会の運営に関し協議又は調整を行うための場を設けることができる。」と規定しています。このことから、議会には、本会議、委員会、協議調整の場しか設置できないとされています。
〇 大阪高裁の判決(H16.4.28) 阪神水道企業団の議員協議会等に出席した企業団議員に対する費用弁償の違法性をめぐる訴訟事件
詳しい判旨については、紙面の都合上割愛しますが、自治法は、本会議、委員会の設置を認めており、それ以外の委員会や会議の設置はできない、また、自治法第203条の「職務」は、正規の会議に出席するものであるから、それ以外の会議の出席は職務ではない。などとする内容になっています。
これに対して、全国町村議会議長会などでは、これも紙面の都合上詳しい内容は割愛しますが、議会には、議事機関たる議会としての活動があり、それも職務のうちであることや、それに伴う会議等を当然に考えることは妥当性がある。などの意見を出しています。
〇 時代は変化している
この判例にかかる問題は、前述している「機関委任事務の廃止」「条例制定権の拡大・義務付け・枠付けの緩和に伴う上書き、横出し」「議会活動の拡大」などや国際社会情勢の変化など様々なことが、判決のあとになりましたので、それらを考察すると、果たして今もこのような「判決内容」になるのかは疑問ではあります。
2 定例会と臨時会の内部機関と議事機関の会議・会合、内部機関は区別される
➀ 定例会と臨時会の付属機関
これについては、前述したとおりです。
② 議事機関の会議・会合、組織
⒈ 議事機関という組織を維持・運営するために必要な会議、会合、内部組織が考えられます。
⒉ 議員の管理・監督という観点から、会議、会合、内部組織が考えられます。
⒊ 議会の役割・責務等の見地から、本会議のための会議や会合、内部組織も考えられます。
これらの理由については、前述しているとおりです。
3 議事機関の会議・会合、付属機関と考えられる事例
➀ 国も積極的な住民との対話を求めている
議事機関の会議・機関は会期に縛られず機動的、効率的に設置・実施でき、最大の効果をあげら
れます。
⒈ 前述のとおり、会議・機関等の設置、運用等にかかる条例を本会議で決定すれば、実際の活動
は会期に縛られず議事機関の活動として行うことができます。
⒉ 具体的例
議会運営アドバイザー、政策サポーター、モニタリング、住民との懇談会・報告会、ワールド
カフェ、ワークショップ、議会パブリック、審議会、調査会、模擬議会、主権者教育施策等
※ 委員会主催による会議・会合とすることが適当とするものもありますが、閉会中に行うには
委員会の継続の決定など一定の本会議での手続きが必要です。
② 国等の要請等にかかる付属機関の設置
⒈ ハラスメント防止のための研修会、窓口相談体制の整備等
⒉ 議会の個人情報の保護に関する条例による審議会等
⒊ 政治倫理審査会、ハラスメント認定委員会、ハラスメント審査会 など
➂ その他
付属機関ではないが、災害時等の議会の対応における「BCP(業務継続計画)」などの策定によ
り、閉会中の議事機関としての対応を考えておくことも必要です。
※ 議会のBCPとは、大規模災害や新型コロナウイルス感染症等の際に行うべき議会・議員の役割
や行動指針、構成員たる議員の所在確認等として、初期対応の高度化が図られ、災害など情報の
収集や議員の参集、議会としての協議や審査に備え、議会としての住民ニーズを的確に反映した
復旧・復興に早期に取り組むことを可能としています。
さらに、タブレット端末等の導入により、災害発生時における情報端末の活用を視野に入れる
ことも考えられます。
Ⅴ 議員政治倫理条例とハラスメント防止条例の背景と課題
‐ 現代の議会では必要不可欠 ‐
1 背景
過去から、地方議会でも「飲酒運転」や「政治と金」が問題となるなど、議員の倫理感が問われる事態があり、地方議会でもこのことに対応するため、また議員間、議員と職員間の倫理上のトラブル、さらに今日の多様性、LGBTQ等人権尊重の機運の高まりから、議員におけるハラスメントへの対応も求められています。このような社会・住民の議会への要請等を踏まえて、「議員政治倫理条例、審査会」や「ハラスメント防止条例、審査会」などの制定・設置が相次いでいます。
2 目的
➀ 議員には議員の品位、高潔性が求められています。
② 議員は公職であり、公人です。
➂ 「議員は労働者にあらず」「議会は職場ではない」との法解釈は、今日の国際社会情勢や価値
観の多様性の中、「議会だけが特別な環境ではない」「議会は組織であり一般的な組織と同様」な
ど、国民・住民には最早通じないものとなっています。
④ 一方で、議員の主権者は住民であることから、活動領域は全域に及びます。言い換えれば、全
域が職場とも言えます。
⑤ 前述しているように、組織である以上、構成員である議員の管理・監督責任は「議事機関」に
あると考えるのが、国民・住民の一般常識であり認識です。
3 条例の制定と設置
➀ 前述のとおり、条例を制定することは可能です。
② 審査会の設置と開催等には前述のとおり、閉会中も議長の招集によっていつでも可能です。
4 課題
➀ 議員政治倫理条例とハラスメント防止条例を区別する必要があるか
ハラスメントも、議員の倫理上に関することなので、区別する必要はありません。倫理基準の項
目で示すことができます。
② 基準について
⒈ 政治倫理条例
広く一般的な事柄にわたることが良いと考えられます。
策定している議会を見ると、そのほとんどが「金と政治」「議員と議員間」「議員と職員間」
によるものですが、議員の倫理は広く一般にも求められるものですから、限定することはないと
考えられます。
1) 議員の責務
ア 議員は町(村)民に選ばれた公選人として、法令を遵守し、自らの役割と責務を深く自覚する
とともに、厳しい政治倫理意識に徹し、良心と責任をもって政務活動を行わなければならなり
ません。
イ 議員は、政治倫理に反する事実があるとの政治的、道義的疑惑をもたれた場合及び法令その
他の政治倫理基準等に反し、議員としての行動を逸脱する事件などを起こしたことが明らかと
なったときは、真摯かつ誠実に事実を明らかにするとともに、その責任を明確にしなければな
りません。
2) 政治倫理基準
ア 議員の品位若しくは名誉を損なう行為又は議会に対する町(村)民の信頼を損なう行為をしな
いことです。
イ 議員は、町(村)民の信託を受けた代表者であることを自覚し、議員としてふさわしい品位と
見識を養い、自らの行動を厳しく律し、政治倫理の向上に努めなければなりません。
3) 議員の責務(ハラスメント)
ア 議員は、住民の代表者として常に高い倫理意識を持ち、ハラスメントが個人の尊厳を不当に
傷つけ、人権侵害に当たることを認識し、ハラスメントの防止に努めなければなりません。
イ 議員は、ハラスメントなど人権侵害の恐れのある行為をしないこと。(倫理基準)等の条文が
考えられます。
下記の図は、私がイメージする議会の形態です。本来であれば、このように考えるのが自然ではないでしょうか。

次回は「正副議長選挙の立候補制の是非とその活用」です。